第18話 奴隷剣闘士

 翌朝、のんびりしたいるとミューシーがやってくる。

 テレサと三人で武術大会が行われる闘技場に向かう。


 今日からトーナメント形式らしい。


 総勢256名が闘技場に入り、数名の行政官の回りに集められる。行政官の一人が高台に上り演説し始める。


 試合が終わった後、テレサがどんな話でしたか、と聞いてきたので


「『健闘を祈る』で終わったのじゃ。」

 と答えた。


「やっぱり、まじめに聞いてなかったんですね。」

 咎める口調で言われた。


「まぁそうなんだが何も問題はなかったぞ・・・たぶん。」


 試合の順番はポイント制だ。さっさと10人抜きをし、短時間で終わらせた者ほどポイントが低く、何度も負けて時間がかかった者ほどポイントが高い。


 カグヤは一番ポイントが低かったのでポイントの高いものと当たるが試合は一番最後だ。待ち時間の間、椅子をストレージから取り出してお茶を飲みながら見物する。 

 会場から出なければ自由らしい。


 カグヤの番が回ってきた。審判に呼ばれて舞台に立ち相手を見る。と同時に『始め』の合図を待たずに、武器を持たずに立っているカグヤに突進してきた。


「フッ、なるほど」


 カグヤは相手に向かって歩を進めながら鉄扇を取り出す。相手は盾で身を守りながら盾の横から剣で突き刺すつもりのようだ。カグヤは相手の盾側に飛び退き、鉄扇で盾を軽く叩いてかわし足を掛けて相手を転がす。

 相手は勢い余って無様に前のめりで転びそうになっているところをカグヤは足でお尻を蹴り飛ばして場外に叩き出す。元の位置に戻り審判の合図を待ったが相手は再び切りかかってくる。


「あれ、場外はないのか・・・。」


 カグヤは呟きながら相手の剣を跳ね返してから相手の盾の端を持って左に引き剥がすと、がら空きになったふ腹部に鉄扇を叩きつける。

 相手はもんどり打って地面に転がる。まだ審判が何も言わないので腹を抱えて蹲っている相手の首筋に鉄扇の先の刃で数cmほど突き刺す。


「まいったぁぁぁぁ、やめてくれぇぇ。」

 相手から悲鳴が上がる。


「それまで、」

 やっと判定が下った。


「なんてめんどくさいのじゃ。」


 やや不機嫌になって舞台を下りる。しばらくすると闘技場に半分が残ったことが宣言され、魔術師がやってきて怪我を回復して回る。


 しばらく待っていると名前が呼ばれ再び試合が始まる。カグヤの番が回ってきた。

鉄扇を持ち舞台に上ると審判が開始の合図をする。


「始め」


 今回の相手は慎重だ。カグヤはゆっくり近づいていく。相手の間合いに入ると男は振り上げた剣を振り下ろしてきた。右手の鉄扇で軽く受け左の鉄扇でコテを入れて、剣を叩き落とし相手を無防備にする。

 追い詰められた男はとっさに殴り掛かってきたが、カグヤは軽くヒザを曲げてかわし、そのまま蛙飛びで男の顎に鉄扇を食らわせると、男は気絶して倒れる。

 カグヤは気絶した男を審判の方に蹴り飛ばす。審判は慎重に確認してから


「それまで」


・・・やっと今日のノルマが消化できたヤレヤレじゃな。


 帰ろうとするが、行政官に待つよう言われた。仕方なく椅子を出しお茶を飲む。


「さっさと帰りたいのじゃが、まだなにかあるのかのう。」


 カグヤは隣にいた男に聞いて見た。


「聞いてなかったのか? 囚人の処刑をするんだとよ。」


「悪趣味じゃな。ワシら関係ないのにのう。」


「ヘタすると全員死ぬぞ。」


「フーン。大変じゃのう。」

 カグヤは人事のように返事する。


 しばらくすると行政官が高台の上に立ち話し始める。


「これより公開処刑を始める。相手はドラゴンナイトの異名を持つ元ラーマ帝国将軍ガラムス・フォビウス、無敗の名将だ。

 不利な戦でも先頭に立ってそれを打ち破り、勝利を手にし続けた猛将でもある。

 決闘にて見事討ち果たせば多額の恩賞と栄誉が与えられるだろう。我と思うものは手を上げよ・・・誰かいないか。」


 行政官は期待を込めた目で全員を見回してから話を続ける。


「捕らえたのは北方の騎馬民族だ。この男を倒せる者がいる国と協力関係を結びたいとわが国に護送されてきた。わが国は遊牧民たちに試されているのだ。

 この男を決闘にて処刑しなければ周辺の遊牧民部族に軽んじられ外交にも支障が出る。

 もう一度言う。決闘にて見事討ち果たせば多額の恩賞と栄誉が与えられるのだ。頼む、国の威信が掛かっている。誰か討ち果たしてくれ。」


 高台の行政官が頭を下げると、他の行政官も一緒に頭を下げる。


「譲ちゃんやらないのか?」


 男がカグヤに近寄って話しかける。


「ワシの知ったことではないのじゃ。お主もなかなかの腕じゃろ、気になるなら殺ればよかろう。」


 カグヤはそっけない。


「俺は戦場で何度かヤツと戦ったことがあるが、何度も負けて逃げ帰ってきた。最後はヤツの姿を見ただけで味方の軍が崩壊する始末さ。俺からも頼む、俺達の悪夢を打ち払ってほしい。」


「お主、この国の者ではないのか?」


「ラーマ帝国に蹂躙された部族の生き残りだ。」


「復讐というのなら止めておくのじゃな。弱肉強食は自然の摂理じゃ。」


「違う。俺は本物の強さを見たいんだ。この都市では譲ちゃんの事を知らない者はいな程だ。ほって置けばこの大陸はラーマに蹂躙されるだけだが、譲ちゃんだけはなんとかしてくれそうな気がするんだ。俺たちが死ぬのは仕方ないさ、でも俺達は生きる希望を探しているんだ。」


 男が頭を下げると、回りの男たちも頭を下げる。


「嬢ちゃんが何者かは知らんが、その強さだけはよくわかる。」


「・・・。」

 カグヤは黙って立ち上がると行政官に話かける。


「確認じゃ。叩きのめせば良いのじゃな。」


「ン?・・・ああ、あんたがいたか、うん頼む、国を救ってくれ!」


「大仰な・・・とんだ災難じゃな。」


 しばらくすると一人の男が連れてこられた。鎧兜に袖・佩楯・脛当・篭手などで身を固め右手に手槍、左手に盾、腰には剣を携えている。カグヤと対峙すると開口一番。


「なんだ、小娘の生贄で許してほしいというわけか、この国に戦士はいないのか!!!」


 カグヤは持っていた鉄扇を男の顔に投げつけると


「なんじゃ、無敵なのは口先だけか、とんだ作り話じゃったな。」


「ホウ、見た目相応の歳というわけではないのか。」


 そう言うやすぐに盾を全面に押したて突進してくる。カグヤも相手に合わせて突進する。


 ガキィーン。


 男は槍を盾の横から繰り出したがカグヤに鉄扇で払いのけられる。

 男はそのまま突進しカグヤを盾で押し倒そうとするが、カグヤは体制を低くし盾ごと男を投げ飛ばすと、男は中を舞い地面に叩きつけられる。

 と同時にカグヤは男に追い討ちをかけるように鉄線で男の頭を殴りつけると、男が被っていた兜が跳ね飛ばされる。


 男は転がりながらも剣を闇雲に振り回すが、カグヤは数歩下がって様子を見ていた。男はすかさず立ち上がると盾と剣を構えた。


 カグヤはすかさず突進する。

 男は真正面から向かってくるカグヤに剣を突き出すが、サッとかわし男の右側の横っ腹に鉄扇を打ち付ける。


 バキッバキッ


 大きな音がして鉄の鎧が引き裂かれた。男は剣を振りカグヤを横薙ぎするがそれも空振り、隙ができたところへカグヤが縦に鉄扇を振り追撃の一撃を加える。


 バキッバキッ


 という音と共に鉄の鎧がさらに引き裂かれボロボロになる。男は一歩引きながら剣を横薙ぎするが再び空振り、カグヤは盾ごと男を叩き飛ばす。

 男は宙を舞った。

 それを追うようにカグヤも宙に飛び、宙を舞う男を上から両方の鉄扇で叩きつけると、男は地面に勢い良く叩きつけられる。


「グボォッ」


 地面に叩きつけられた男は肩でゼェゼェ言いながら起き上がろうとするがフラ付いてなかなか起き上がれない。やっと立ち上がった男にカグヤは突進する。

 男は盾で防御するが、その盾が三枚に切られ手に持った部分だけが棒状に残る。カグヤは容赦なく追撃し男の横っ腹に鉄扇を打ち込む。男は最後の力を振り絞って剣を突き出すが、カグヤはそれを待っていたかのように小手を決める。


 ボキッ


 大きな音とともに男の右手首は折れ手首が曲がる。

 兜を飛ばされ鎧はボロボロに引き裂かれ守るべき盾も切り裂かれた男は、そのままヒザを着いて大きく肩で息をしながら頭を垂れる。


 会場からは大歓声が上がっている。しかし、それが殺せコールに変わっていく。


「戦いの果てがこれじゃ。満足かの。」

 カグヤはボロボロになった男を見下ろすように立っていた。


「違う、俺は最強といわれた。俺はもっと強くなりたかった。俺は強敵を求めてここまで来たんだ。」


「ではもう満足なんじゃな。」


「これほど強い者がいるとは知らなかった。俺は強いわけではないのか。」


「か弱いのう。」


「・・・。」


 闘技場では殺せコールが響き渡る。カグヤは闘技場を一回り見上げてから


「しかし、これはこれで気に入らん。」

 カグヤは闘技場を見回して呟く。


「シルフ、拡声じゃ。」

 シルフたちが一気に増殖していき、闘技場全体に広がる。


「皆聞け!  審判を下す。」

 カグヤの声が闘技場全体に木霊する。会場は一瞬で静まりかえった。


「これよりこの者はワシの奴隷とする。意義のある者は剣を取って我が前に立て! 剣を持って我に異を唱えよ! 障害となる者は一人残らず叩き潰す。」


 観客席がざわめきだす。しばらくすると拍手が起こる。最初は勘違いかと思えるような小さな音だったが、次第に拍手の存在感が増し、最後は大きな拍手となって闘技場を包む。


 カグヤは男にエクスヒールを掛けると、最初に拍手してくれたであろう方向に頭を下げ、片手を上げて闘技場全体に手を振りながらその場でゆっくり一周する。


「くだらん茶番は終わりじゃ。」

 男に立つように急かして会場から出る。拍手はいつまでも続いていた。


 カグヤたちが闘技場から出ようとすると行政官に呼び止められた。

「手続きはして行ってください。」


「余韻も何もあったものではないの。これだから公務員は・・・。」


「コウムインって何ですか? 手続きはこちらですよ。」


 手続きをしている間にガムラスに着替えを与えて着替えて貰った。手続きを済ますと


「三日後に9時集合です。お昼持参でお願いします。遅れないでくださいね。」


「はーい・・・。」


 手続きを終え、カグヤが外に向かって歩いていくと職員たちは仕事の手を止め、その背に向かって静かに立ち上がりお辞儀をしていた。


 外に出るとテレサとミューシーが待っていた。


「はじめまして、闘技場では無敵のドラゴンナイトにお会いできるとは光栄です。」

 ミューシーがチャカして話す。


「こいつのせいで無敵ではなくなったぞ。なんなのだこいつは手も足も出なかった。」


「修行の賜物じゃ。」


「アハハ、謎の強さですからね。」

テレサも口を開く。


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