第14話 海賊

 翌日、カグヤは暗いうちから広間でくつろいでいた。テーブルにはカグヤがストレージにストックしていたコーヒーとピザやリンゴなどの果物が並べられていた。


 しばらくするとテレサが起きてくる。他の家族たちはまだ寝ているようだ。


「おはようございます。ずいぶんと早いのですね。」


「ウム、これを食べてすぐ出発じゃ。」


 カグヤは片手を上げて軽く挨拶すると、テレサにピザとコーヒーをすすめる。


「ふぁーい、昨日も母上に夜遅くまで尋問されてましたぁ。・・・ン、おいしい、これなんですか初めて食べます。」


 昼間のテレサは気持ちいいぐらいにテキパキと動くが、朝に弱いらしくヌボッとしていたが、おいしいものを食べて目が覚めたようだ。


 テレサが食べ終わってコーヒーを飲み干すのを見てカグヤが立ち上がる。


「この黒いのはコーヒーですか。宮廷の晩餐会で飲んだことがあります。とても高価なものと聞いていますよ。」


「あるところには捨てるほどあるものじゃ。」


「捨てるほどですか・・・。」


「ほれ、飲んだのならすぐ行くのじゃ。」


「はい。」


 テレサは、メイドたちに余った料理を下げ渡し、食器を片付けておくよう指示してからカグヤに続く。



 城門を出て港に着くと辺りは明るくなっていた。港には昨日知り合ったゴルデスたちがいた。カグヤは軽く手を上げながら近づいていく。


「ほぼ全員いるようじゃな。・・・って酒臭いのう。全員そこに並ぶのじゃ。」


 カグヤは魔法でピュアポイズンを掛けて解毒していく。


「ヌオー、二日酔いがなおったニァァァァ。」

 フラフラしていた猫耳娘が喜んでいる。


「おう、あと三人はそろそろくるはずだ。それで全員だ。しかし、船はどれだ? 戦闘用とは言いがたい船ばかりだが。」


 カグヤはニコッと笑うとストレージから出したエアバス(ホーバークラフト)を地面に出現させる。


「これで行く、テレサ乗船の案内を頼む。」


 全員もの珍らしそうに眺めているが、誰一人として乗ろうとはしない。


「船に乗る話はどうした。」


「これが船です。すごいスピードで走るのです。」

 テレサは誇らしげに話す。


「いや、水の上ではなく地面にあるこの鉄の箱はなんだと聞いているのだ。新手の監獄にしか見えないのだが。」


 ならず者同士でも、騙し騙されるという話はよくあること。対立している集団に騙され始めているのではないか、と疑っているのだ。


「なんじゃ、この期に及んでもう怖じけづいたのか。捕らえる気ならばエクスヒールなぞ掛けんぞ。」


「まぁ、それもそうだな。」

 ゴルテスはカグヤの後に続いてエアバスに乗り込むと、他の者たちもテレサとともに続けて乗り込んだ。


 全員が乗るとすぐに動き出し、ゆるやかに流れる大河の上を滑るように加速していく。椅子が並べられている広い客室の先頭には運転席があり、カグヤはそこで舵を握っていた。


 最初、ゴルテスたちは流れるように過ぎていく外の景色を眺めていたが、ふとカグヤの方を見る。

 いつの間に乗ったのか、カグヤの後ろには背に羽を背負い、キラキラと輝く鎧を着た女武者が5人立っており、カグヤと何事が相談していた。


 しばらくすると女武者がカグヤと運転をかわり、カグヤが状況の説明をしに後ろ客席まで歩いてくる。


「事態は切迫しているようじゃな。海賊船は3隻で総勢150名ほど。海沿いの漁村をいきなり襲撃するらしい。」


「お、おう、いったいどこでそんな情報を・・・。」


 ゴルデスはカグヤの頭の上に小人サイズの羽の生えた精霊を見つけて絶句した。


「ああ、これは風精霊シルフじゃ。大気中の精霊のようなものを眷属に持っておる。偵察や諜報には便利なのじゃ。」

 カグヤは、自分の頭の上で腕組みをしてふんぞり返っている精霊シルフを指示す。


「まったく、精霊界の頂点に立つシルフ様をパシリ扱いしやがって。」

 精霊シルフは怒っていた。


 いかなる戦いにおいても、相手の情報を得ることは非常に重要だ。そのことはシルフ自身もよく知っているので、仕事のたびに報酬を求めるのだ。


「おお、忘れておった。ほれ。」

 カグヤはストレージからビスケットを一枚取り出すと、シルフはすぐに飛びついてかぶりついた。


「うおっ、かわいい。精霊って餌付けできるんニャ。」

 猫耳娘が叫ぶ。


「モゴモゴモゴモゴモゴ。」

 シルフはビスケットを口に頬張りながら何事か話すが、何を言っているのか聞き取れない。


「我ら害虫はお菓子のために命を掛ける虫けらだ、と言っておる。」

 カグヤが代わりに誤訳する。


「モゴモゴモゴモゴモゴ。」

 シルフはカグヤの誤訳に抗議するが伝わらない。


「単細胞で卑しい我らをこき使ってください、と言っておる。」


「モゴモゴモゴモゴモゴ。」


「私はニャンナ。後でお菓子あげるから私のペットになるニャ。」

 猫耳娘ニャンナは精霊シルフに自分のペットになるよう勧誘する。


「あーそれはやめておいた方が良いぞ。シルフは精霊一のいたずら好きじゃ。ろくなことにならぬ。」


 「何が起きたのニャ。」


「朝起きると顔が炭で真っ黒になっていたり、袋に入れておいた食料が食われていたり、金貨や銀貨を川や海に投げ込んでいたり、毒虫を捕まえてきては服の中に入れたり、カエルを顔に投げつけてきたり、アホないたずらが多いのじゃ。」


「そのくらいならかわいいいたずらニャ。」


「真面目に対面している貴族の顔に水をかけたり、貴族のヒゲをちょん切ったり、兵士の剣を盗んで持ってきたり、高価な壺や貴重な物を投げて壊して遊んでいたり、燃えやすいものに放火してまわっていたり、王妃のドレスの裾をめくってあそんでいたり・・・ワシは何度もお尋ね者になっておる。」


「それはちょっとやばいいたずらニャ。」


「ほほう、我を所望か。それならばその猫耳に水をぶち込ませてもらおう。」

 お菓子を食べ終わったシルフがニャンナの目の前にフワフワ飛んでくる。


「やめるニャ。」

 思わずニャンナは両耳を手で押さえた。



「とりあえず腹ごしらえをしておくと良いのじゃ。」

 カグヤはそう言いながらサンドイッチとお茶を出す。


「この白くて柔らかいものはなんだ。」


「パンに決まっておる。」


「白い何かだニャ。」


「そうだな。」

 

 固くて茶色っぽいパンしか見たことがない者たちはそれで納得する。要は、うまければなんでも良いのだ。


「それにしてもこの海の上を走る馬車はすげぇなぁ。」

「とんでもなく速いね。」

「馬がいないのに動いてるのがすごい。」


「ウム、工学を駆使して作っていたが、めんどうになったので強引に魔術と精霊術で形にしたのじゃ。」


 カグヤは少し誇らしげにしていたが


「こうがくと言ったか。老古学というなら古代の神々の知恵かなにかか。」

「それはすごい。たいしたものだ。」


 微妙に話は食い違っていた。



 大河を下っていたエアバスは海に出ると海岸沿いに右に向かう。


「シルフよ、あとどれぐらいじゃ。」


「あと少しかな。海賊船から人が降り始めて戦闘準備中だってさ。」


「よし、間に合ったようじゃな。それでは戦闘準備じゃ。基本的には捕らえるのが主ではあるが、ある程度の死傷者はやむを得ん。止まったら一気に外へ出て体制を整えるのじゃ。ワシとヴァルキリーたちが先頭で飛び出す。腕に自信の無い者は前に出ないで捕らえることに専念するのじゃ。」


「今回はわれが味方するので大船に乗った気でいるがよいぞ。」

 精霊シルフがフワフワと空中に浮かびながら己の存在をアピールしてまわっていた。


 視界に海賊船らしき船が入る。


「シルフよ。あれが海賊船で間違いないな。」

 カグヤは確認する。


「あれで間違いないよ。これから村を襲おうとしているところみたい。」

 シルフは遠くにある船を見ながら話す。


・・・よくあんな遠くのものが見えるものじゃな。

 カグヤはいつもながら感心していた。 


「今回は精霊様も味方だ。気合入れていくぞ。」

 ゴルデスは元冒険者のリーダーらしく皆を鼓舞する。




 運転台に乗っハンドルを持ったカグヤは、砂浜に着けた海賊船の近くにいた100人ほどの集団に突っ込んで数十人ほどを跳ね飛ばす。何度か海賊たちをドリフト回転させながら蹂躙すると海賊たちの近くで停まった。


 同時に船の扉を開けてヴァルキリーたちとカグヤが飛び出す。


 海賊たちは驚きながらも怒り狂っていた。


「危ねぇじゃねぇか。」

「何人やられた。ぶち殺せ!」


 口々にののしり声を上げながら、向かってくるカグヤに剣や槍を向ける。


「海賊共どもよ。大人しく投降すれば命までは取らぬ。武器を捨てよ。」

 カグヤは念のために投降を呼びかける。海賊かどうかの確認をするためだ。


「ガキがわざわざ捕まりに来たのか。高く売ってやるからありがたく思え。」


「ふむ、海賊確定じゃな。」


 カグヤは地面を蹴って一気に間合いを詰めると、海賊たちを次々と叩きのめしていく。ヴァルキリーたちは四方に散り、海賊たちが散会して逃げないよう追い立てる。


 その間、ゴルデスたちは次々と降りて密集隊形を取って慎重に海賊たちの集団に近づいていく。


「敵の数は多いぞ、慌てるなよ。一人ずつ確実に捕らえるんだ。」

 ゴルデスはカグヤの心配をしつつも慎重に行動していた。油断すれば自分たちの命も危ないのだ。


 カグヤは海賊の集団たちの間を機敏な動きで突破しながらかく乱し、突き抜けると海賊たちと向き合う。


「くそう。なんだお前はおかしな恰好しやがって。」

 カグヤの強さを目の当たりにした100人ほどの海賊たちの動きは止まり、円を長くように一ヶ所に固まった。その周囲を少数であるカグヤとヴァルキリーたちとゴルデスたちが囲んでいた。


 カグヤは聖獣フェンリルと水精霊ウンディーネを呼び出す。

「フェンリル、別働隊を探してすべて殺せ。ウンディーネは船の動きを止めよ。」


 村を襲うつもりの海賊たちは、突然現れたカグヤの奇襲に呑まれた。カグヤはゆっくり海賊たちとの差を縮めていく。ゴルテスたちもそれに合わせる。


「シルフ、目潰しじゃ。」


 シルフは猛烈な風を出し、海賊たちの足元の砂を巻き上げる。


「ヌオー、目がぁー。」


 海賊達の目に砂が入って痛そうにのた打ち回るのを確認して、ストレージから拘束用の枷を百個ほど出し地面に投げ落とすと、海賊達に向かって間合いを詰めて、次々と鉄扇で打ち据え気絶させていった。

 わけがわからず目を瞑って剣を振り回す男たちを軽くかわしながら鉄扇で殴り無力化しながら無双する。その後ろではテレサが次々と手に枷を嵌めていた。


 両脇を見るとゴルデスたちも頑張って一人ずつ確実に無力化していく。勝負はついた。

 残った者たち30人ほどは武器を捨ててヒザを突く。そこへフェンリルがゆっくりカグヤに近づいてくる。


「森の中に15人。殺りました。」


 カグヤは投降した者たちに向かって話す。


「森の中の別働隊は殺した。お前達は遺体を回収して船に乗せよ。抵抗したり逃げようとしたら殺す。フェンリルこいつらの見張りを頼む。逃げようとしたり向かってくるようなら遠慮なく殺して良い。」


 なんとか終わったか、と思いながらふと船を見ると、船のオールが4本動いていた。


「あっ、まだいたのか・・・。」

 カグヤは海賊船に飛び乗る。船には5人乗っており、4人が必死にオールを漕ぎ、1人はヒステリックに叫んでいた。


「もっと力を入れろ、全然進んでないぞ。」


・・・ウンディーネが船を抑えてるから動くわけがないのじゃ。


 ガクヤはその男を後ろから蹴る。


「ヒィィィ、コ、小娘、なかなかの上玉ではないか、よし私の奴隷にしてやる。」


 カグヤは近づいて鉄扇で頭を殴り気絶させる。カグヤは4人に問う。


「お前達も海賊の一味で良いのか?」


「いえ、私たちは隣村のものです。漁をしていたら襲われて捕まりました。」


 足元を見ると鎖で繋がれていた。


「おっと、これは気がつかなんだ、すまんな。」


 そう言いながら鉄扇で次々と鎖を断ち切っていった。


「ありがとうございます、助かりました。」


 男たちは涙ぐみながら礼を言う。念のために他の2船も確認してみたが誰もいなかった。





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