武術と魔術を駆使し精霊を使役する聖少女。旅と冒険を楽しんでいたら、とある王国にたどりつきました。折角なので無双します--アイナリント--月の音色--

白山天狗

第1話 魔物の襲撃

 季節はうららかな陽があたる春。城塞都市ロートでの出来事。

 ロート市の城壁は、外敵から守るために作られた15mほどの外壁の厚さは約5mほどある。都市を囲むように巡らされた壁の総延長は10kmにも及び、過去さまざまな外敵から都市を守ってきた。


いま、ロート市は大型犬ほどもあるアリに襲われていた。



「城壁によじ登ってきた魔物の頭を全力で叩き潰せ! 飛び道具や魔法を使える者は頭を狙え! 城内への侵入は許すな。」


 城壁の上には多くの兵士と冒険者たちが怒号を発しながら、ギチギチと大あごを鳴らしながら壁を登ってくるスモールアントと戦っていた。


 足の長い鈎詰めを持ったスモールアントたちは垂直にそそり立つ壁をいとも簡単に登りあげてくる。多くの兵士と冒険者たちが協力して、次々と壁を登りあげてくるスモールアントを撃退していく。


 スモールアントとは大型犬ほどの巨大アリで、10匹ほどの群れで獣や魔物の死骸をあさる森の奥の清掃人のような存在だ。


 冒険者たちも森の奥でよく遭遇することはあるが、大あごをギチギチと鳴らしながら単独行動するため遠くからでもその存在が確認でき、大した脅威のある魔物ではない。

 しかし、それが千匹単位の群れとなると話は変わる。

 さらに、普通の魔物なら15mもある城壁を超えて襲ってくることはほぼありえないのだが、スモールアントは平地も城壁もまったく関係なく進軍してくるのだ。

 

 トリシア王国第三騎士団のザルツ・ド・セルトン団長は、城壁の一角に立ってその攻防の様子を見守る。城壁の上にいる兵士たちは怯える様子もなく、城壁から落とされてもすぐに体勢を立て直して登ってくる魔物たち相手に勇敢に戦っていた。

 魔物たちは足を折られたり失ったりしても、命ある限り攻撃の手を緩めなかった。


 やがて、日が落ち始めるとともに引き上げていくスモールアントの先遣隊を睨むように見送った。


・・・50匹ほどの魔物の先遣隊相手にこの騒ぎではかなり厳しいな。



 一ヶ月ほど前、ロート市の冒険者ギルドから「千匹以上のスモールアントの群れが付近の村々を襲っている」との報告を受けた王都の王国軍だったが、森の奥で十匹程度の集団生活をおくるスモールアントの群れの脅威度が理解できなかった。


 それでも、王国軍は事実の確認のため、第三騎士団にスモールアントの偵察任務の指令を出す。指令を受けたザルツ団長は王都より馬で7日ほどのところにある城塞都市ロートへ5百名ほどの騎士団員と共に駆けつけていた。


ミューシー・スラージュ参謀が渋い顔をしながら近づいてくる


「お疲れ様ですザルツ団長。そろそろ日が暮れるので敵さんは引き上げていきますね。」


「ああ、夜中に攻めて来ないだけありがたいな。偵察の報告はどうだ?」


「数は数千と報告する隊があれば、1万に達すると報告する隊もあり正確な数はわかりません。明日の午後には本体がこの街の周辺に到着するようです。」


「そうなるとどうなる。」


 ザルツ団長は、ロート市の周囲を魔物に囲まれるというゾッとする光景を思い浮かべたが、それを否定してくれと願わんばかりの目をミューシー参謀に向けて聞き返す。


「少なくとも千匹ほどの魔物が折り重なるようにして一点集中で押しかけてくるため、防御は不可能でしょう。」


「少なくとも千匹が折り重なるように一点集中か。魔物ならではの戦術だな。と言って避難するにはすでに手遅れか。」


「はい、昨日ロート市から逃げ出した貴族たちは、途中でスモールアントの先遣隊に襲われて逃げ帰ってきています。」


「個別の強さは並みの冒険者でもなんとか倒せるCクラス程度だが数が多過ぎる。その上に、疲れ知らずで死ぬまで戦い続け、進軍速度は早馬並。撃って出ても篭城しても絶滅は確実だろうな・・・あー、どうすりゃいいんだ。」


 ザルツ団長は首を振って頭を抱えていた。


 通常の群れなら多くても数十匹程度で、ロート市の冒険者だけで退治できるが、今回の群れの規模が異常に大きい。さらにロート市には周辺の村からの避難民で溢れかえり、人口十万人ほどの街では倍以上に増えた人口を養いきれず食料も高騰していた。


 しばらく考えこんでいると城壁の上にいる兵卒たちがザワザワと騒ぎ出す。


「団長!10台ほどの馬車が、ゆっくりこちらに近づいてきています。護衛も何人かいるようです。」


 ザルツ団長は目を凝らしながら視線を城壁の外に向ける。


 ゆっくり進んでくる馬車の一団の周りには10人ほどの護衛たちが、襲ってくるスモールアントを撃退しながら街道を進んできていた。


「何!バカかあいつら、群れの中を通ってきたのか。」


「今、護衛の一人が瞬時に5匹ほど倒しましたね。たいした腕だな・・・よく見ると回りに狼のようなものもいますね。あれは召還獣かな?それにしてもよく辿り着いたものです。」


「おい、急いで門を開けてやれ。」


 正門に近づいてくる馬車を見ながら傍らに控えていた兵卒に伝達させる。


「ウォー、貴重な戦力を逃してたまるかぁー。」


ミューシー参謀も叫びながら門に向かって駆けていった、ザルツもゆっくり門に向かって動き出す


「開門!開門!」


 ミューシーは大声で叫びながら城門を開けさせる。


 門が開けられると、馬にまたがり大剣を振り上げたザルツ団長が数人の兵士たちとともに門の外に飛び出し、馬車の一団に向かって馬を走らせる。


 近づくにつれ、事態の深刻さを目の当たりにする。

 馬車を引く馬たちは魔物に怯えてなかなか真っすぐに進まず、御者たちも馬の扱いに苦労しているようだった。


 その馬車を追うように、百匹ほどのスモールアントが追いかけてきていた。

 だが、その追撃も後方にいる立派な鎧を着た者たちと数十匹の狼たちに阻まれ近づけずにいる。さらに後方では、変わった服を着て両手に鉄扇を持った一人の少女が激しく動き回って戦っていた。

 左右に飛び回るその動きはとても早く人間ワザとは思えない強烈な一撃を加え、固い皮で守られている魔物を一匹ずつ確実に仕留めていた。


 ザルツとその部下たちは、馬車を追っている魔物群れを見た瞬間、死を覚悟したが、少女の立ち回りを見て勇気を奮い起こす。


「おい、助けに来たぞ。」

 ザルツは鎧を着た騎士たちに声をかける。 


「おう、助かる。馬車の左右の警護をしながら先導してくれ。馬たちが怯えて話にならぬ。」

 羽のついた兜の奥から、若い女性の声が聞こえた。


・・・フルプレートの女騎士とは珍しいな。

ザルツは部下たちを馬車の一団の左右に配置し、自身は先頭に立って先導する。


「早く街に入れ、身元の確認は中でやる、急げ!」


 馬車の一団とその護衛と狼たちを城門内に通す。


「ふう、やっと着いたのじゃ、アリンコのクセになかなかに執拗じゃったのう。」


「おい、怪我はないか。」


 どう話しかけて良いのか迷いながら、ザルツは鉄扇を持った一人の少女に近づきながら声をかける。


「うむ、無事じゃ。」


 その少女は怖さを知らないのか、強面で大柄な体格のザルツ団長を仰ぎ見ながら遠慮もなく口を開く。


「この町でキミたちのことは見たことは無いが、他から来た冒険者なのか。」


 その少女の後ろには、馬車の護衛をしていた鎧の騎士たちと狼たちが集まってきていた。


「ワシは旅商人みたいな者じゃ。アリンコが大発生していたので観察していたのじゃが、途中で逃げ遅れていた商人や避難民たちを見つけたので拾ってきたのじゃ。」


 ザルツはカグヤと名乗る少女に懐く20頭ほどの狼を見ながら


「それにしてもキミたちはかなり名のある冒険者チームなのだろう。よく来てくれた歓迎する。」


「いや、護衛はワシ1人じゃな。こやつらは精霊ヴァルキリーじゃ。」


「精霊だと?それにその狼は魔物か?人を襲ったりしないだろうな。」


 カグヤと名乗る少女はそれには返事をせず、狼たちの頭を撫でながら


「よしよし、みんなよくやった。また頼むのじゃ。」


「はい、それでは。」

 鎧を身にまとい、槍や刀などを持った10人の護衛たちは少女の前に整列すると一斉に敬礼する。


クゥーン

 狼たちは一声鳴くと次々と霧となって消えていった。同時に少女に敬礼していた10人の護衛たちも一緒に消える。


「えっ、消えた?どうなってるんだ?」


 いつの間にか側に来ていたミューシー参謀は、消えた狼と立派な鎧を着た10人がいた場所まで行って確認する。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る