キョンシーンワ ~神の心知らず~
タカサト ロク
第一章 神の心知らず
第1話 天照らす神1
我の名はアマテラス。
……いや、アマテラスというらしい、が正しいか。
我ら「神」と呼ばれるモノは、地上の認識でいう「存在」とはまた違った概念で存在している。
神は地上がその存在を望んだり、認めたりすると生み出されてしまうのだ。
彼らによると、私はイザナギという別の神の左目から生み出された太陽神で、女神なのだそうだ。……だが特にその記憶はない、勝手にそう創られただけなのだから。あるのはその望まぬ役目と重圧だけで、拒否権も無ければ研修期間も無い。
役目から解放されるためには地上に必要とされなくなり、忘れ去られるしかない。だから悲しいかな、我は誕生したと同時に思った。
――早く忘れてくれ!
我が照らさなければ地上の生命は滅びゆく……ってなんだ! ひとつの存在にどんだけ大きな責任押し付けてんだ! 年中無休で責任重大すぎる仕事……どう考えても無理! なにゆえだ、地上の生命たちよっ!
だが先述したように、拒否権は無い。
……それからどのくらいの時間が過ぎ去っただろうか。千年を超えたあたりから数えることもやめてしまった。結局、あの誕生の日から意外にも責任感の強かった我は、人間でいう胃のあたりをキリキリさせながらも押し付けられた仕事を無休で続けている。ただ黙々と無感情に。
そんなある日、我の住まうここ
とにかく凄まじい衝撃に意識を失ったようで、気が付いたころには大岩によって塞がれた洞窟に閉じ込められていた。周囲には瓦礫が散乱している。
「うう」
……いったい何が起こったのか、地上は大丈夫だろうか、我はどのくらい意識を失っていたのか。
「あ……あれ?」
だか起き上がることができない。身体はやけに重く、力が上手く入らないのだ。
「ぐっ。うう!」
それでもなんとか力を振り絞るが、消耗しきった身体は全く言うことを聞かなかった。
くそっ……! 一刻も早く出なければならないというのに!
しかし焦る反面、ふとある考えがよぎる。
――もしかしてこのまま出られなければ、我は解放されるのか? もう毎日毎日照らさなくても良いのか?
消えゆきそうな意識の中、そんなことを思う。
……だがきっと、それには多くの犠牲が生まれる。……嫌だ。なんだかんだずっと見守ってきた地上。興味など無いはずなのに、いつの間にか責任以外の感情も芽生えていたらしい。
しかし大岩に閉じ込められたままの我は消耗が進み、どうすることもできぬまま、再び意識を手放した。
そして次に起きた時、目の前はなぜかあの洞窟ではなくなっていた。
そこには見知らぬ光景が広がり、見知らぬ男神がいる。
男神は我が起きたのに気が付くと、こちらに近付き、同時に糸目なのか微笑んでいるのか分からない顔で話しかけてきた。その声はどこか楽しげで飄々としている。
「あ、おはよ。気分どう? 君、これから僕のキョンシーやから。よろしくな~」
これが我と、我の主となる「ドウシン」との出会いである――。
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