第8話 本番だけはちゃんとやれよ

 「……ごめんなさい」

 演奏が終わり、袖に捌けた瞬間私は頭を下げた。オーケストラの団員たちは居心地悪そうに顔を見合わせた。

 「ま、確かに空矢のせいだよな」

 獅々田くんが楽器をケースに仕舞いながら皮肉たっぷりに続けた。

 「何があったか知らないけど、本番だけはちゃんとやれよ。音楽家ならさ」

 「な、ナオヒトくん!」

 宮本さんは非難するように彼を見た。

 「そんな言い方ないよ! できなかったのはみんなの責任でしょ!?」

 「時間ギリギリに来たせいでリハもできないで挙句の果てにあの指揮だぞ。何をどう考えたら俺たちの責任って言えるわけ?」

 「でも……」

 「俺たちはあの女帝さまの言う通りに練習してきた。個人練習の時間を削って、毎日夜遅くまで。その結果がこれじゃ誰もついていけないよ。本番の指揮者の調子で左右されるなんてゴメンだ。みんなもそうだろ!」

 獅々田君の呼びかけに、団員たちのいくつかはおずおず頷いた。

 「アイリも考え直した方がいいよ。このまま第三オケっていう泥船に乗って心中するか、俺たちが自分でもう一度オケを作り直すか」

 「そんな、せっかくあんなに練習してきたのに。なかったことにしちゃうの?」

 「もう結果は出た。結果が全てだ。そうだろ? なぁ、女帝さま。あんたが散々言ってた通りだ」

 私は俯くことしかできなかった。何も言わない私に獅々田君は苛立ちを隠せなかった。舌打ちをして歩き出した。

 「もう抜ける。明日にでも有志オケの申請書出す」

 「ナオヒトくん……」

 獅々田君と、そして彼に続いたチェロパートのメンバーは帰ってしまった。彼らを止めることができなかった宮本さんは差し出した手の収めどころが分からいようで、ただ立ち竦むだけだった。

 「……ごめんなさい」

 私は再び謝ると、そこから逃げるように走り去った。

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