第63話
「…さて、ひとまずこいつらはどうするんだ?」
「決まっているじゃないか。全員このまま王宮まで連行する」
今二人の前には、完全に気絶して横たわっているリーゲルと、同じく気絶して倒れこんでいる10人ほどの彼の仲間、そして隅で自身の体を震え上がらせているマイアとセレスティンがいた。
「連行するったって、俺たちだけじゃ無理だろう?」
「心配はいらない。そろそろ来るはずだ」
「そろそろ?誰が?」
クラインがそう言葉を発したまさにその時、なにやら遠くから大きな声が二人の耳に聞こえ始める。
「大丈夫ですか!大丈夫ですか!クラインさん!ラクス様!大丈夫ですか!」
「ほら、来た」
「なんだなんだ?」
その声は次第に大きくなっていき、その人物が二人の元まで接近していることを現していた。
そしてその声が明瞭に聞こえるほどまでになった時、その人物が二人の前に姿を現した。
「大丈夫ですか、お二人とも!」
「ああ、この通り無事だとも」
「(こいつは…あぁ、さっきまで一緒にいたクラインの部下の男か…)」
そう、現れたのはクラインとともにリーゲルたちの見張りの任についていた、クラインの部下の近衛兵であった。
「クラインさんから命じられていました通り、援軍の兵を呼んできました。まもなく全員が到着することと思います」
「ありがとう、ごくろうだった」
「それにしても…また派手にやりましたねぇ…」
「グローリア様からの命だ。別に私がやりたくてやったわけではない」
クラインはそう話しながら、自身の懐から一通の手紙を提示する。
それはグローリアがクラインに渡すようラクスに授けたもので、その内容は短くこう書かれていた。
「『やれ』…。ずいぶんとざっくりした命令文ですねぇ…」
「それでこそだよ。短いからこそ、そこにはグローリア様のいろいろな思いが込められているんだ」
「そういうものですか」
二人がそう話をしていたその時、クラインの部下が呼び寄せていた近衛兵たちが現場に到着し、次々に気絶した男たちの体を馬車の荷台に担ぎ込んでいく。
マイアとセレスティンは自分で動くことができたため、兵たちの介抱を受けることなく自らの足で馬車に向かっていく。
その最中、静かな口調でマイアがクラインに言葉を発した。
「…クライン様、私はあなたに嘘ついてしまいましたけれど、あなたを愛しているという私の思いは本当の本物なんです…。もしも、もしも生まれ変わることができたなら、その時は今度こそ私と結ばれてくださいますか…?」
…最後の最後まで自分のペースを変えないマイアに対し、クラインははっきりと自分の思いをストレートに伝えることとした。
「いえ、私とあなたが結ばれることなど永遠にないでしょう。何度生まれ変わろうともね」
「ちょっと、ひどいじゃない!マイアがこんなにも思いを正直にぶつけているのに…!」
「ひどいのはどっちだか…。おら、さっさと馬車に乗れ」
マイアの言葉に対するクラインの返事を聞いて、なぜか腹を立てている様子のセレスティン。
結局彼女もまた自分の行いを全く反省していないという点で、リーゲルによく似ているように感じられた。
そしてこんな状況にあっても自分のペースを第一に考えている点は、マイアと実の親子であるという事を深く感じさせられる。
そしてついに、その場にいた全員が王宮へ向かう連行用の馬車に乗せられた。
最後にクラインが馬を操る彼の部下と言葉を交わす。
「それでは、我々はこのままこの者たちを王宮へと連行します」
「あぁ、よろしく頼む」
「では、これにて」
そう会話を終えた後、リーゲル家の者たちを満載した馬車は王宮を目指して出発していった。
他の誰もこの場に残っていないため、この場にいるのはクラインとラクスの二人のみとなる。
「侯爵様、一頭だけ予備の馬があちらに用意されています。ご帰宅にはそちらをお使いください」
「それはありがたいが…。お前はこれからどうするつもりなんだ?」
「私はもう少しこの家を調べてから、グローリア様にすべてを報告しに戻るつもりです」
家の者が誰もいなくなり、もぬけの殻となっているリーゲルの家。
ここを調べ上げればいろいろな新しい事実が明らかになることは明白であり、クラインは一刻も早くそれらの情報を探し出そうとしていた。
どこまでも冷静なクラインらしい考えではあるが、そんなクラインの言葉を聞いたラクスは、ややシリアスな表情でこう言葉を返す。
「王宮に戻る前に、お前に行ってもらいたい場所がある。…いや、待っていてもらいたい場所と言った方がいいか」
「待つ?どこで?」
クラインの質問に対し、ラクスはやや間を取ったのちにこう答えた。
「教会だよ。そこでお前たちは再会することになってたんだろう?」
「そ、それは………で、でもどうしてその事を?」
クラインはその事をぜひとも聞きたかったが、ラクスはその質問に答えることなく、そのまま話題を変えた。
「あの馬の名前はなんて言うんだ?」
「マルンだ。私が小さい時からずっと一緒にいる、家族同然の馬だとも」
「マルン、いい名だ。じゃあ借りていくぜ」
「ちょ、ちょっと侯爵様!」
ラクスは小さくそうつぶやくと、そのままマルンの上にまたがり、クラインに言葉を返すことなく、その勢いのままにその場から姿を消していったのだった…。
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