色々教えてくれる先輩

空本 青大

先輩教えてください

とある学校の中庭に、とある男女がベンチで横並びに座っていた。


教子きょうこ先輩、教えてもらいたいことがあるんですがいいっすか?」

「ああ、いいとも知樹ともきくん。なんだい?」


薄い笑みを浮かべながら先輩は、神妙な面持ちの後輩の話に耳を傾けた。


「自分モテたいんっすよね。でも、モテたことないから方法がわからないんっすよ。なんかいいモテ方ありませんか?」

「ふふ、思春期らしい悩みだね。じゃあ、すぐにできる方法を教えよう」

「あざっす」


右手を顎に手を当てながら先輩は、右隣にいる後輩に語り始めた。


「君は少しネガティブで消極的なところがあるから、赤色や黄色を身の回りのものに取り入れたらどうだろうか。色彩心理学で言うと、赤はポジティブで行動的になれるし、黄色は好奇心を刺激し積極的になれるそうだ」

「なるほど」

「さらに言うと赤色には、ロマンチックレッド効果というものがあり、人を魅力的に見せる効果があるぞ」

「ほぉ」

「あとはカラーミラリング効果というものもある。これは気になる相手が、よく身に着けている服や持ち物の色と同じ色を、自分も身に着けることで心理的な距離を縮めることができるんだ」

「ふむふむ」

「色の効果は案外バカにできないものだ。気になったのなら試してみるとい」

「うっす。教子きょうこ先輩感謝っす」


一週間後――


知樹ともきくん」

「なんすか、教子きょうこ先輩?」


放課後いつも通り二人はその日も、学校の中庭のベンチに腰かけていた。


「ここ最近の君は随分と色取りが変わったね。赤い靴を履いて、制服の下には黄色のシャツを着て。わたしの言ったことを実行しているようだね」

「はい。ご教示いただいたとおり身に着けてるっす」

「それはいいんだが、少し気になっていることがあるんだが……」

「なんすか?」

「なんかピンクの持ち物が増えたようだね?ピンクのお弁当箱、ピンクの腕時計、ピンクの文房具……ピンクについては語ってなかったと思うが?」


先輩は不思議そうに後輩の持ち物に目を向け、後輩に疑問を投げかけた。


「ああこれは教子きょうこ先輩が好きな色っすよ」

「え?」

「ん?教子先輩ピンク好きっすよね?間違ってました?」

「い、いや確かにわたしはピンクが好きだが、なぜ君が身に着ける必要がある?」

「やだなぁ先輩が言ったんすよ?気になる相手の持ち物と同じ色を身に着けると、距離が縮まるって」

「え?ん?つまりそれって……」

「あ!これから自分バイトがあるんで帰るっす。教子先輩また明日」

「う、うん……ま、またね……」


そそくさとその場を後にした後輩を見送った先輩は、茫然とベンチに座り続けた。

夕陽の光が辺りを染めたころ、


「知樹くん、もしかしてわたしのことス、ス……」


中庭にただ一人赤く染まる先輩の姿があったそうな――

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色々教えてくれる先輩 空本 青大 @Soramoto_Aohiro

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