君のうしろ
眞柴りつ夏
僕の話
世界はいつもどんよりと暗い。
それに気づいたのは物心ついた頃で、でも言葉にできないから『そういうもの』だと思っていた。
母は気づいていたらしい。
小学校に上がる頃には色々な病院へ僕を連れていき、たくさんの検査をした。が、どの数値も正常だった。
『そういうもの』だと思っているのが僕だけで、検査すればするほど『僕は変なのか』と思った。
母は特に悲しむでも励ますでもなく、「ケーキ買って帰ろ」と手を繋いでくれた。
「そんなこともあったねぇ」
母はコーヒーを口元に運びながら言った。
実家から1時間ほど離れたところに住んでいるので、たまにこうやって呼び出される。お気に入りの喫茶店のお気に入りの席で、ただまったりと二人で過ごす。
普通の大学生だったらこんなことはしないのだろうけど、僕は母と話をするのが好きなのだ。
「私の周りはどう?」
「ん、大丈夫」
「そっか。大丈夫か」
僕に見えるのは、今でもよく分からない。言語化がそもそも難しい。なにせ、他に症例が見当たらないのだ。
が、なんとなくそうじゃないかと思っているものはある。
生命力、みたいなものが煙のように人の背後に見える、のではないかと。
「母さんの場合は相変わらず濃いよ」
「ふっ。ありがと」
吹き出したのは、僕が小さい頃からそれを伝えているからだ。
母の背後はいつも灰色が濃い。
逆に、余命わずかの人に遭遇すると、その煙のようなものは吹けば消し飛んでしまいそうなぐらいに薄かった。
そんな異様なものが見えるのに精神的におかしくならなかったのは、毎回話を聞いてくれる母がいてくれたからだと思っている。
「じゃ、また暇なとき、声かけてよ」
テーブルに自分の分のコーヒー代をいつものように置いて立ち上がる。母がニヤけた。
「初デート、頑張って」
「うるっさいな」
ひらひらと手を振って、僕は喫茶店を出る。
そう、今日は初デートなのだ。
すぐそこの駅前に君が見える。
——ああ泣きそうだ。
君のだけ、色が見える。
君のうしろ 眞柴りつ夏 @ritsuka1151
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