新卒レッドの伝説

ハルカ

まだ青かった俺は赤いネクタイで「レッド」になった

 黒歴史といえば、新卒の頃にやらかしたことを思い出す。

 よりにもよって入社式に赤いネクタイをつけて出席したんだ。


 赤といってもワインレッドくらいの色で、新卒の俺がつけるには少しオッサンくさいかなとは思ったんだけど、そのネクタイは死んだ親父の形見でさ。お守りみたいな気持ちでつけていったんだ。


 でも、他の新卒は誰もそんなネクタイはつけてなくて。たぶん俺は悪目立ちしてたんだと思う。入社式の直後に上司から呼び出しを食らって「新卒なんだからもう少し控えめな色のネクタイにするように」って注意されたんだ。

 そのときは「わかりました。すみませんでした!」なんて返事して、ああそうか、このネクタイじゃだめなんだな、仕事終わりに青山寄れるかな、とか考えてたんだけどさ。

 あとになって「もし親父が生きてたら『お前それはやめとけ』なんて言ってくれたのかな」とか「変なことでお袋に心配かけたくないな」とか、いろいろ考えちゃって。


 トイレで落ち込んでたら先輩に見つかった。

 「初日からサボるな」って怒られるかと思ったんだけど、その先輩すごく優しくてさ。「どうした? 体調悪いのか?」って心配してくれて。俺が事情を説明したら、周りにうまく話してくれたらしい。


 それで、気がついたら俺のあだ名が「レッド」になってた。

 戦隊もののレッドのイメージらしい。うちの会社はノリのいい人ばかりで、みんなことあるごとに「頼りにしてるぞレッド!」って言ってきたり「さすが我が社のレッドだ!」って褒めてくれたり。

 俺も悪い気はしなくて、仕事を頑張ってみたり資格の勉強をしてるうちに、本当にだんだん責任のある内容を任されるようになってきてさ。嬉しかったな。


 この話には続きがあって、今年入社してきた後輩のネクタイが紺色だったんだ。さっそくみんなから「ブルー」って呼ばれてて、由来を話したら笑ってた。

 そんなわけで、この話は俺の黒歴史でもあるんだけど、会社自慢でもあるんだ。

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新卒レッドの伝説 ハルカ @haruka_s

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