私が神様とケンカした日

虹うた🌈 

神様とのケンカ


「だからっ!違うって言ってるじゃないですかっ!」


 薄暗い部屋の中————


 灰色の机を挟んで向かい合う中年男性に、ついに彼女は荒げた声をぶつけてしまいました。


 何度も同じ質問をくり返し尋ねてくる彼に、彼女がイライラしていたのは分かっていたし、今、自分が置かれている状況が理解出来ていない筈だから、つい出来心なんです。………ゴメンなさい。


 それでも彼は冷静に質問を続け、机の上に広げた黒台紙に挟まれた書類に何事かを書き込んでいました。


 取調室………?みたいな個室に連れてこられて、随分経つけれど……一向に進展しない会話。もう、何が何だか分からないです。



「…………何度も、すみません。ご家族のお名前と、お出掛けになった時の服装をもう一度確認させて頂きます。それから………ですね。ご家族は何時ごろ、何処に何をしにお出掛けになられたんでしたか………?」


 もう、何度投げ掛けられた分からない質問に辟易へきえきしながら、彼女は同じ内容を繰り返し繰り返し説明し続けました。



「————もう、いい加減にして下さい。人違いだって言っているじゃないですか。そん筈ないんです。だって、ついさっきまで一緒にいたんですよ?…………そんなに言うなら会わせて下さい。そうすれば、直ぐに人違いだって分かりますから………」


「………申し訳ないです。お会い出来る準備が整うまで、もう少しだけお待ち下さい。ただ、ご覚悟はなさっていて下さいね。状況を考えると、ご家族で間違いないと思います」


「………………ッ!?や、やめて下さい。黙って聞いていれば、決めつけたようなこと言わないでよ!私の家族じゃないって言いましたよね!?」


「………………そうであれば、良いですね。私だって、あなたに哀しんでほしくはないです。どなたにも、哀しい想いなんてしてほしくはないです」



 彼と彼女が、そんな会話を交わしていた記憶があります。ただ、その時の彼女は利己的に、何度連絡をしても返事の無い家族の身の安全と、不安に圧し潰されそうになっている胸の苦しみが何処かに行ってしまうように必死に願うことしか出来なかったんだと思う。


 大丈夫…………

 きっと大丈夫……、絶対に大丈夫だから……!


 自分に言い聞かせるように、彼女は何度も何度もそう繰り返していましたからね。


 そして漸く室内にノックの音が鳴り響き、制服姿の若い女性が入ってきました。彼女から小声で準備が整った旨を伝えられると、彼から感情を取り払ったような冷たい声が掛かりました。


「お待たせしました。準備が整いましたので、ご確認をお願いします」



 冷たい地下室に向かう道中、彼女の震える両足をなんとか支えていたのは————何の根拠もない自信。ほんの数時間前まで、体と体がくっつく位に傍に寄り添っていたあの人が自分を置いて居なくなる筈がないって信じているんです………。だって、あの人から届けられる聞き馴染んだ声も、お日様みたいに包み込んでくれる香りも、ふわふわとした柔らかい髪の手触りも、時には優しく時には真剣に自分に向けてくれた眼差しも………全部、彼女の体と心に沁み込んでいて、消えてなんていないんですから。



 でもね。———―きっと、彼女はもう分かっていたんです。


 これから、ちびまる子ちゃんとサザエさんが始まろうとしている、気怠る気な雰囲気が漂うリビングに、けたたましい電話の声が鳴り響いた時に————


 電話の相手から、病院ではなく警察に来るように言われた時に————


 何度連絡をしても、あの人がを返してくれなかった時に―――



 ————―そう、彼女はもう分かっていた。



 自分の願いは、一生叶わないこと………


 もう、この胸の苦しみは————

 一生消えることは無いことを、彼女は分かっていたんだと思う。




 重たい扉が開くと、よくドラマで見かける緑色の手術服を着た人達が何人も立っていました。そして、その人達が取り囲んでいる冷たそうな金属製のベッド。

 

 そのベッドの上には、ぼろぼろに、グシャグシャになった…………。


 そっか、だからあんなに時間がかかっていたんだね。



 私―――情けないけれど、その場に膝をついて座り込んでしまった彼女に駆け寄ることが出来なかった。今まで、ずうっと一緒にいたのに、肩を抱くことも、声をかけることもしてあげられなかった。


 その瞬間とき———でした。



「——————私の家族に、間違いありません」



 気遣ってなのか心配してなのか、うずくまっている彼女の元へと駆け寄ろうとしていた人達の足を止める声が上がりました。その声がとても冷静で落ち着いていたので、きっと泣き崩れていると思っていた彼女が発っした言葉なのかどうか戸惑ったのでしょう。


 彼女はふわふわとした足取りで立ち上がると、ベッドに一歩一歩近づいていきました。そして変わり果ててしまったあの人の頬にそっと手の平を当てて、こう言ったんです。



「…………痛かったね。守ってあげられなくて、ゴメン。―――ゴメンね」






 おい―――

 私の唯一の友人である彼女に、こんな顔をさせた、そこのお前。


 神様だか何だか知らねえが、

 ――――私は、絶対にお前を許さない。


 彼女が、何か悪いことでもしたってのか?彼女と彼女の家族は、ただ細々と幸せを紡いでいただけじゃねえか。幸せであろうと、していただけじゃねえか。


 罰を当てるなら、他を当たれよ。悪ぃことしているくせに、平気な顔をしてヌクヌクとしている奴らなんて、他に幾らでもいるだろ?


 この大きな大きな世界の片隅で、小さく小さく存在している―――私。

 

 そんな私が、でっかい存在の神様とやらに、静かにファイティングポーズを向けた、今は昔の―――あの日の出来事です。






☆ ――― 初めに ――― ☆



 皆様、こんにちは~!


 私は、虹うた🌈と申します。


 私は、暫く前からカクヨムで活動をしている物書きです。いつもお世話になっている方も初めましての方も、どうぞ宜しくお願い致します!

(*_ _)ペコリ


 これから私が皆様にお話しするのは、とある彼女の日々の物語です。

 

 彼女の名前は、うたちゃん。この物語の中の私――こと虹うた🌈は、彼女のイマジナリーフレンドとして生まれ、今まで長い年月を彼女と共に過ごしてきました。まさに喜びの時も悲しみの時も、私たちは一緒!☆


 この物語は、そんな彼女との今までと、今――そして、これからを、面白おかしく、そして時には淡々と、お伝えするエッセイなんですよ。


 あっ………出だしは、重たいお話しになってしまいましたけどね!

 (>_<)💦


 この物語のタイトルである、私が神様とケンカをすることになってしまった、あの日のお話しでしたから……ねぇ。でも、ご安心ください。今の私は友人とまではいかなくても神様との仲直りを果たし、それなりに仲良くやっています。だからこそ、こうやって、あの日の物語を皆様にお話しすることが出来るのです。


 だからどうか、気負わずにお付き合い頂けたら嬉しいです。彼女が日々、どんなことに興味を持ち、悩み、そして、どんなことに心を動かされているのか、時折ポエムなども交えながらお伝えしていくつもりですので、肩の力を抜いて楽しんで頂けたら嬉しいでっす!

✨(≧▽≦)✨


 う~ん、たぶん――ですけど。近々、次のエピソードを公開します。その時は、ぜひお気軽に遊びにいらして下さいね。


 それではこれから、どうぞよろしくお願いいたします!

 (^_^)/マタネ――!





 ※  尚、ここで語られる物語は実際にあった出来事や、彼女との日常を書き込んだエッセイであります。―――が、全てが事実という訳ではありません。彼女や登場人物達のプライバシー保護の観点から、そこかしこにフェイクやボカシを織り交ぜてありますので、予めご了承くださいませ。

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