「パーティー名」決定会議

水瀬 由良

「パーティー名」決定会議

 今から行われるパーティー会議は非常に重要だ。

 5人で冒険者パーティーを組んで、3ヶ月。

 アルマ、ダイン、サイラス、ミュート、そして、俺トッドの男5人のパーティー。暑苦しい。しかし、この5人は最高の組み合わせだと思っている。

 前衛が2名、後衛が2名、そして、前衛後衛問わずに動くサポート役1名。

 ダンジョン探索やモンスター討伐、素材採取などいろいろな仕事をしてきた。仕事の前には準備をしなければならない。パーティー会議は何回も開かれている。


 今回のパーティー会議は今まで最も重要な会議だと言っていい。

 

 それは、「パーティー名を決める」という会議である。


 有名な冒険者のパーティーには名前がある。誰かが勝手につけた二つ名でよばれることなど、まずない。パーティーにはそれぞれのパーティーが名前をつけている。

 単なる寄り合い所帯には名前はつけない。つける意味がないからだ。

 名前をつけるのは、その名前が広がり、依頼を受けやすくなり、冒険者ランクも上がっていくからだ。いくら強い仲間で一時の同盟を結んだとしても、すぐに解散するのでは、名前をつける意味はない。


 名前をつけるというのは、「これからもこのメンバーでやっていく」という一種の決意表明でもあるのだ。


「よし、全員集まっているな。これからもこのメンバーでやっていく。もちろん、新たなメンバーの加入はあるかもしれないが、このメンバーが最初のメンバーということになる」

 アルマが声をかける。アルマは前衛で、声が大きい。気合いを入れる時にはアルマの声が一番いい。

「そうですね。これからも皆さんよろしくお願いいたします」

 丁寧な挨拶のサイラス。

「改まるのもくすぐったい感じがするっすが、よろしくっす」

 お調子者のダイン。

「よろしく。みんな」

 まとめ役のミュート。

 俺もよろしくと返す。

「さてと、この会議の目的は……パーティー名を決めることだが、俺はもちろん何も考えちゃいねぇ。こういうのは苦手だ。だから、今日はミュートに進行役を譲ることにする!」

 ガハハハと笑うアルマ。


「あなたの場合、今日は、ではなく、今日も、でしょ」

「いちいち細かいんだよ!サイラス」

「まぁまぁ、じゃあ進行役は僕でいいかな」

 ミュートが言い、一同がうなづく。

「とはいえ、僕も妙案があるというわけではないから、募集したいと思うんだけど……何か考えてきた人はいるかな」 

 ミュートが促すが、誰も言わない。

 いろいろ考えてはみたものの、どうもイマイチなのだ。


「考えたんっすけどね、色から考えたらどうかなって思ってるんす」

 ダインが沈黙の中、口火を切った。さすが、切り込み隊長。

「色ってぇと、赤とか、黒とかっていう色か?」

「そうっす。ほら、やっぱみんなどうせならカッコイイ名前がいいっすよね? 色つきって何かカッコよくならないっすか?」

「そうですね……有名な『真紅の衝撃』に『青き薔薇』、『白銀の狼』……と有名どころでも、いいところがたくさんありますね」

 サイラスが挙げたパーティーはいずれも超有名どころだ。

 確かにカッコイイ。


「うん。なるほど、色か。それぞれのパーティーの特徴も出ているし、覚えやすく、しかもカッコイイ。色から考えるダインの案に反対のものはいるか」

 ミュートが皆に確認をとると、反対する者はいなかった。


「では、色から考えるとして、何色にしようか? 色といえば、それぞれにイメージがあると思うんだけど、僕たちにふさわしい色はどんな色だろう?」

 イメージカラーというものだ。

 例えば、「真紅の衝撃」はサソリをモチーフにしたトレードマークも持っており、少数精鋭・一撃必殺がパーティーの特色であり、「青き薔薇」は女性のみで構成されており、青い薔薇のように採取が困難とされる採取クエストを中心に依頼を請け負っている。「白銀の狼」は討伐系クエストのみを受注し、全員が剣士として、その鍛え抜かれた白銀の剣を振るって、狙ったモンスターを必ず屠ることで知られている。

 

「私達にふさわしい色……どういうものでしょうか……」

「あんまり、他のパーティーとかぶるのもよくないっすよねぇ……」

 確かにダインの言う通りだ。他の有名どころとかぶっては、名前を覚えてもらえない。

「面倒だ、黒はどうだ?」

 アルマが言う。 

「アサシン集団でもなければ、闇にまぎれて生きてる集団でもないから、ちょっとおかしくないか」

 俺も使われていない色で思い浮かんだのは黒だったが、どうもイメージとは違う。


「他のパーティーに使われていない色で使えそうな色……緑とか、紫、黄色といったところでしょうか」

 サイラスがとりあえず、といった感じで色を挙げていく。

「緑って言えば、優しい感じがするが、このメンバーに優しいイメージは……あんまりないな」

 ミュートが笑った。

「黄色は勘弁願いてぇ。イメージになるんだったら、俺に黄色の服は似合わないぜ」

「別にその色の服装にしなきゃいけないってことはないっす。あくまでイメージっす」

「それにしても、アルマに黄色は似合いませんね。かくいう私も……ですが」

 アルマの戦闘スタイルは脳筋である。合う色といえば、赤、紅だろう。しかし、その色がパーティーに合うかと言えば別だ。サイラスが使える魔法は水と風。どちらも赤系の色とは違うし、サイラスの魔法は赤とはそぐわない。

「一回、黄色の服をアルマやサイラスに来てもらいたい……と思ったが、既に笑えてくるから、止めておこう」

 自分で言い出して、自分で笑う。

「トッド、止めておくっす。ヤバいっす。気持ち悪くなってくるっす。特に筋肉だるまのアルマに黄色はヤバいッす。むしろ、紫もいいじゃないっすか」

 ダインが悪のりして、笑い出すと、横のアルマがダインの頭をどやす。


「それなら、お前が着ろってんだ。そこらのジジイよりは見れるだろうよ」

 ちなみに、ダインの行動は前衛の割には搦め手が多く、色を言うなら灰色だろう。

 

「おいおい、個人の色じゃなくて、パーティーの色だぞ」

 ミュートがたしなめる。

「ちょっと確認していいか。色って言うのは特徴のことだが、それを確認したい」

 俺が尋ねると、ミュートがうなずいた。

「まず、戦闘スタイルだが、アルマを中心にした突進もすることもあれば、ダインを中心とした惑わしを中心に戦うこともある。さらには、ミュートを中心に魔法で相手を直接攻撃していくこともあれば、守りに特化した防御戦をすることもある。そう戦闘スタイルからはなんとも言えない」

「確かに、トッドの言う通りだね。さすが、サポート役だけあって、よく見えているな」

 さらに俺は続ける。

「では、受注スタイルはどうかというと、『白銀の狼』のように討伐系だけをしているわけでもなければ、『青き薔薇』のように採取系に特化しているわけでもない」

「言われて見ると、私達は何でもできますからね。パーティーのバランスがいいのでしょうけど」

「サイラスはそう言うっすけどね、逆に器用貧乏ってことでもあるんじゃないっすかね」

「だとすると、戦闘スタイルや受注スタイルってところからは色が決まらないけど、他にどんなが考えられる?」

 ミュートが俺に聞いた。

「他には、目的がある場合もスタイルは決まってくると思う。最終的にはドラゴンスレイヤーになりたいとか、未踏破ダンジョンを攻略したいとか。でも、ハッキリ言って、俺は今のところ、そんな大きな目標はない。有名になって、楽しく暮らせたらなってぐらいだ」

「まぁ、確かに俺も似たようなもので、間違っちゃいないな」

 アルマも同意する。

「とすると……」


 話し合いをして、分かったことがあった。


「「「「「俺たちにはスタイルがない!」」」」」

 

 全員が声をそろえ、「なんだ、これ」と大笑いをした。

 そうなのだ。スタイルと呼べるほどのものがないんじゃ決めようがない。色だなんだと言う前にスタイルを確立すべきではなかっただろうかと笑ってしまう結末だった。


 そして、最後に決まった俺たちのパーティー名は……


『カメレオン・スター』


 結局、特徴がないという結論になり、それが特徴なんじゃないか? という話になって、いろいろな色になるカメレオン。それに初期メンバー5名だから5つの頂点を持つ星。


 カメレオン・スター


 手前勝手なわりに、それぞれの役割を尊重して、メンバーで補い合い、相手や依頼毎にスタイルを自由に変化させていく。

 実に俺たちっぽい名前だ。重要な会議で素晴らしい名前が決まった。


「いくぞ。ここからカメレオン・スターの伝説が始まるぜっ」

 そういったアルマの声が微妙に震えている。

 いや、若干ダサいのは俺だってそう思っているが、そのダサさも含めて、実に俺たちらしいのだ。

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