もしも

堕なの。

もしも

 もしも幸せがこの世に存在しなければ、対義語である不幸も存在しないでしょう。絶望に暮れた瞳をする親友の前で、私はただそう思ったのです。

「何で、皆んな離れてくの。ずっと一緒だって言ったのに。ねえ、○△ちゃんはずっと一緒に居てくれるよね? 離れないよね」

 最早正常とは思えないその瞳に私を映しながらそう語るのです。それ故に、彼女の口から紡がれる自らの名は、何時からかノイズ音にしか聞こえなくなってしまいました。まあ、本人に言ったら何をされるか分かったものでは無いので、口を噤むしかないのですけれど。

「でも、楽しかったですよ」

 皆んなで居た時間を思えば、彼女の瞳も微かに揺れました。まだ、彼女の中では友だちなのでしょう。躊躇いもせず裏切るような人間のどこを友だちとしているのか。本当は、躊躇っていなかったかどうかなんて私からは知り得ないことですが。どうもきっぱりと決断したようにしか見えなかったのです。そう仕向けた悪質な女が存在するのですから。

 もしも浄不浄がこの世に存在しなければ、彼女がこんなにも傷つくことは無かったのでしょうか。それも分かりませんね。私は彼女ではないですから。

「でも、皆んな好きだよ〜」

 本当は、彼女はとても良い子なんです。浄不浄で言ったら、限りなく浄に近い存在だと思うんです。まるで、犯罪者の血が入っているとは思えないほどに。

「今は誰も貴方を傷つけませんよ」

 そう言えば彼女は泣きじゃくりました。というより、泣きじゃくることを再開した、という表現の方が正しい気がします。兎も角、彼女は脇目も振らずに泣いているのです。

「むにゃむにゃ……、皆んな、大好き……」

 そのうちに、彼女は泣き疲れて眠ってしまいました。

 幸不幸があるから、浄不浄があるから、彼女はこうなったのでしょう。こんなにも壊れた、彼女に優しくない世界で、今まで生き残ることが出来ていたんです。彼女のその心優しさは、この残酷な世界が作り上げたのです。

 それでもやっぱり、いや、だからこそ、幸不幸も浄不浄も無い世界で生きたいと思ってしまうのです。

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もしも 堕なの。 @danano

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