第52話 モンスターニップ

ダンジョンの入り口で草の束を積んで燃やしている者達がいる。


見たところはオーガやゴブリンっぽいんだけれどいつものように顔や腕に塗料を塗って緑色にした冒険者たちだ。


商人っぽい男が指図しているようだ。


「変だな、これだけのモンスターニップがあればかなりのモンスターが寄ってきそうなもんなんだけどなー。」


「ウックルー、これ本物のモンスターニップなんか?」


まだ駆け出しの商人ペダフルが仲間の商人ウックルに言う。


モンスターニップは通常はオニハッカとも呼ばれてシソ科の多年草でハーブの1種。

人間には鎮静剤的な効果がある。


モンスターに対しては興奮状態や酩酊状態にする。


前世でキャットニップとかまたたびが猫に対して同様の使われ方をしていたなー。


モンスターニップは燃やすと魔物を誘い出す効果がある。


でも、このダンジョンの魔物は狩り尽くしちゃったからなー。


「あ?あれ?ダンジョンから魔物じゃ無くて冒険者のパーティが出てきた。」


顔を緑色にした冒険者がウックルに言う。


ペダフルはムール達を見て慌てる。


「君たち子供ばっかりでこんな上級ダンジョンに入っちゃダメだよ。危ないよ。」


「そーだよ、いまからいっぱい魔物が集まるんだよ。」


とは言うもののモンスターニップの周りに集まっているのはブッシュの中から出てきたフォレストキャットばっかりでゴロゴロ言っている。


「しばらくダンジョンの中には魔物がいないよ。」


パエリが言う。


「お嬢ちゃん、なんでそんなことよりがわかるの?」


ウックルがからかう様に言う。


パエリの事を勇者に憧れてお姉さんにダンジョンに連れてきてもらった子供だと思っている。


「だって全部狩っちゃったからね。」


サーフラが言う。


「あのねえ、ここは大人のベテランの冒険者でも苦労する上級ダンジョンなんだよ。それをこんな子供が.....。」


と保護者だと思われるジュネの方を見て苦笑いする。


その時にパエリの額当てを見て急に表情を変える。


「あ、あれ。その紋章。勇者の紋章だよね。」


この世界で勇者の紋章を知らない者はいない。


そして勇者の紋章が勇者以外には決して身に付けることが出来ないことも。


「ま、まままま、まさか......。」


ウックルがそーっと額当てに手を伸ばす。


パンっと手が弾かれる。


「ほほほほ、本物だー。」


「ん?」


今まで無関心だった冒険者やペダフルがパエリの方を見る。


「た、たたた、大変だー。勇者がでたー。」


「かいさーん、解散だー。」

「撤収ー。撤収ー。」


なんだか怪物と遭遇したような大騒ぎ。


ちょっとパエリに失礼じゃないか?


とか考えているうちにゴロゴロいっているフォレストキャットを残して誰もいなくなってしまった。


何これ?


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