第30話 クッピト男爵の憂鬱1

ムールがパエリの髪を櫛で漉いている。


ムールが小さいのでパエリがベッドに座ってムールはその後ろに立っている。


いつも使っている脚立を使えばいいのに。


この後ツインテールに結って勇者の額当てをつけると身だしなみの出来上がりだ。


私は自分でできるのでいつもの光景を眺めている。


「出かけるよ。」


「サーフラ、お待たせ。」


ムールがそう声をかけるとようやく目覚めたかのようにパエリは立ち上がる。


足元で不思議なものを見るみたいに小さくなったフェンリルがムールを見上げている。


ここのダンジョンも初心者向けで階層は20階ボス部屋のキングオーガを倒すと1000G手に入る。


ゲームではここを何回か周回して武器や装備をアップデートする資金を手に入れるところだ。


鋼鉄の剣が10000Gだったかな?


オレ達はお金や装備はあるので純粋にサーフラのレベル上げが目的。


サーフラはついてくるだけで大丈夫。


ここは入口からずっとオーガが出て来る。

階層によってステータスが違うだけ。

なので戦闘技術も何もいらない。


パエリが聖剣を左右に振り回しているだけ。


完全な力押しだね。


簡単すぎて飽きてきたんだろう、例によってパエリが愚図り始める。


「疲れたー。お腹すいたー。」


サーフラは黙ってついて来ているのに。


フェンリルも何もすることが無くてただの散歩になっている。


あくびをしながらとぼとぼついてくる。


と思っているとダンジョンの入口に何人かの冒険者らしき人達。


商人っぽい人がなんか説明している。


集められた冒険者達は皮のパンツ一丁に着替えて顔や体を赤やら青やらに塗り始めた。


オーガに化けているつもりなのかな。


「ねーねー。何かイベントがあるの?仮装大会?コスプレ?」


話しかけてみた。


冒険者と商人がギクっとなってこっちを見る。


なんかやましいことの様だ。


「あー。僕ちゃんはいい子だからあっちにいって大人しくしていてね。」


商人っぽい人が言う。


「おじさんたちは今からお仕事だからね。」


などと冒険者の一人が言う。


「ムール、どうしたの?早く街に帰ってお肉が食べたいな。」


パエリが呑気なことを言って近づいて来る。


「あー。ああああ。あれ、あれ、あーあー。ははは。なんでここに勇者がー。」


冒険者の一人が騒ぎ立てる。


商人が走って来てパエリを見る。

額当ての紋章を見て腰を抜かす。


「あー。あー。本当だ。」


「撤収ーっ。」


「作戦は中止。」


「撤収ー。」

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