第16話 勇者の家

「ポベロ、ポーションは出来たの。」


「待ってシエルもう少しで今日の分が出来る。」


「カブスが荷車で待ってる」


どの子もまだ12歳に満たない子供達だ。


ここはスラム。

廃れた教会の一部に行き場の無い子供達が勝手に住み着いていた。


今はシスターの姿をしたゴーレム3体が子供達の面倒を見ているし建物も見違える程綺麗になった。


たまたま勇者が通りかかった時には子供達は食べ物も無くて飢えて弱りきっていた。


目の見えない子供や体の一部を失った子供もいてなんとか今まで生きて来たという状態だったんだ。



「なんだここ?なんで街の中にこんなところがあるんだ?」


壊れかかった教会の前でムールが言う。


パエリは黙ったままムールの手を引いて建物の中に入って行く。


「ひどいな。」


形のある家具などは一つもない。

窓ガラスもない。

まだ暖かい季節とはいえこんなに風が通り抜けたら夜は冷えるだろう。


子供があちらこちらに寝転んでいる。


布団だとか毛布のようなものさえない。


もう助けを求める事すらしない。


パエリがオレの後ろから両脇に手を入れて持ち上げて子供達の方に向ける。


「ムール、直して。」


パエリがポツリと言う。


そりゃなんでも治せるけど。



部屋の中が光に満たされた。

その光は優しく、温かく体を包む。


なんだか失った左腕の断面がむずむずする。


空腹で冷えて疲れきった体がポーっと温かくなって力が湧いてくるようだ。


無意識で失われたはずの手で額を拭う。


「あれ、腕が、腕が治っている。」


すぐそばで倒れていたサヒルが自分の手のひらを見ていた。


「目が目が見える。」


他にも足が生えて来たものや熱病が治ったものなどが歓声を上げている。


その激しい光が引くと赤毛で赤い瞳のお姉さんが小さな子供を抱えて立っていた。


その額にはまぎれもない勇者の紋章。


「ああ、神様は僕達を救う為に勇者様を遣わせてくださった。」


いや、お前達を治したのオレだし。


勇者様の名前はパエリで連れているのは弟?従者?

なんか小さい子供だけど偉そうにしゃべる。


この子供の名前はムール。

賢者だって自分で言っていた。


自分で賢者って、あんなに小さいのに。


と思っていたんだよ。


でもこの子鑑定ってスキルを持っていて僕達にあーしろこーしろって言い出したんだ。


なんだ小さいくせに僕達に指図するのかーって思ったけど、この子ジャムがついたパンとかジュースをどこからかだして言う事を聞いたらやるって、ずるいんだ。


仕方なく聞いてやる事にしたんだ。


「ポベロ、お前は錬金術師だ。とりあえずはポーションでも作って治療所に売れ。」


そう言ってポーションの作り方を教えてくれた。


他の子にも剣士だから衛士の助手をやれ、とか冒険者になれとかどうやって生きていけばいいのか教えた。


壊れかけた教会の建物も直した。


子供だけじゃ危ないってシスターみたいなゴーレムも作った。


勇者様はずっとニコニコして見ていてくれた。


小さな賢者はニコニコしている勇者様を見て嬉しそうにしていた。


この教会の跡地は身寄りのない子供を集める施設でもあり学校でもある「勇者の家」になった。


実は「勇者の家」はあちらこちらの街にあるらしい。


僕達は勇者様が僕達にしてくれた事を他の子供達にもしてあげられるようになりたい。


でも、あの小さな賢者ってなんだったのかな?


えー、わかるだろう普通。

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