4.忘れられない想い
「ただいま」
「おかえりなさい」
家に帰ってくると、母さんが迎えてくれていた。普段はこの時間なら仕事に行っているはずなのだけれど、もう帰ってきたのだろうか。
「あれ、今日は早いね」
「ああ。今日は仕事お休みなの。朝電話がかかってきて、
母は近所のスーパーにパートとして出ているが、同僚と休みを変わることはたまにある。
「ふうん。そうなんだ」
何気なくうなずいて、それからすぐに思い当たる。来週の土曜日はちょうど未来の命日だ。
おばさんもまだ忘れきれてはいないのだろうな。僕は心の内でつぶやく。僕にとっては
僕はいつか忘れる日がくるのだろうか。僕にとっての未来は大切な友達で、そして忘れられない初恋の相手だった。それでもいつかは時間が癒やしてくれるのかもしれない。
だけどおばさんにとっては自分のお腹を痛めて生んだ愛娘だ。子供が自分よりも先に死んでしまった事実は、死ぬまで忘れられないものかもしれない。
僕はその愛娘をおばさんから奪ってしまった。
でも未来は僕を助けようとして、僕の代わりに事故にあったんだ。だったら間接的に僕が殺したようなものだと思う。
おばさんとは今でもたまに顔を合わせるけれど、いつも疲れた悲しそうな顔をしていた。おばさんは事故の話になるたびに、僕だけでも助かって良かったと言ってくれる。
だけど本当は僕のことを恨んでいるのかもしれない。おばさんは優しいから、僕には何も言えないだけかもしれない。ついそんなことを考えてしまう。
たぶんこれは僕の勝手な考えで、おばさんはそんなことは考えていないのだろう。なのに僕は自分で自分を責めずにはいられなかった。
今もずっと未来は僕の心の中にある。
自分がこうしてのうのうと生きていていいのか、僕の心はずっと見えない霧の中をさまよい続けているような気がする。
「
「いや、違うよ」
母さんも梨央と同じようなことを言うなと思う。
それだけ僕は未来にとらわれているように見えるということなんだろう。そしてたぶんそれは間違ってはいないのだ。
「それならいいけど。志々見さんだって、一真がいつまでもそんな風だったら、ずっと気にしてしまうんだからね」
「……そうだね」
気のない風に返事をすると、僕は自分の部屋へと向かう。
母さんの言う事もわかる。未来のおばさんのためにも、僕は前を向くべきなのだろう。
でも僕の心はあの時から一度も晴れていない。僕はまだ未来にとらわれて続けていた。
好きだった。
大好きだった。
どうしてこの想いを伝えられなかったんだろう。どうしてこうなるまで気がつかなかったんだろう。
気がつくと僕は涙をこぼし始めていた。
未来と一緒にいた時間は、とても輝いていて。楽しくて明るくて。いつまでも一緒にいられるんだって考えていた。
時には喧嘩もしたけれど、次の日には仲直りした。
そんな未来が大好きだった。
でも僕は気持ちを伝えることは出来なかった。
だって死んだ相手には何も伝えられないじゃないか。
僕はずっと引きずっていた。本当は大好きな気持ちを伝えたかった。
やりそこねていたことがたくさんたくさんあったから。
「……いこう」
僕は着替えを済ますと、カメラを手にする。
いつもの未来との思い出の場所まわりに向かおう。
この間は山の方にいったから、海の方へ向かってみるのもいいかもしれない。
僕が住む街はそれほど大きな街ではない。それほど人口も多くないし、近所では見知った人も多い。もちろん街の人全員が知り合いといったほどには小さくないけれど、どこにいっても知り合いと出会う可能性は高い。
だから自然と海や山のような人の少ない場所を選びがちだった。
でも田舎の街だからこそ海も山もあって、僕達は自然の中でいつも遊んでいた。だから思い出の場所も自然の中にこそ多い。
昨日あのみらいと出会ったのは、裏山の林の中だった。いま時期は紅葉が綺麗な場所だし、近くには小さな池もあるし用水路もある。こども、特に僕達のようなわんぱくなこどもが遊ぶには最適な場所で、虫取りやら魚釣りやらをして遊んでいた。
未来は女の子ではあったけれど、いつもそんな僕達と一緒に遊んでいた。
僕と未来、梨央。それから
会いたいなと思う。湊にも。そして未来にも。
もういちど裏山にいけばあのみらいと出会えるだろうか。
あのみらいが何者なのかわからない。でも彼女が自分は未来だと名乗る以上は、僕は確かめなければならないと思う。
だから僕はみらいを探して外へと向かっていた。
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