ある画家の話
常闇の霊夜
あの日の黒い色
『お前は所詮我が家の寄生虫なのだ』
……あの日から、ボクの視界はモノクロだ。
視界に色が見えない。……画家志望だったボクの夢は、両親に破られた。
気が付けばボクは家を飛び出しどこへ行くでも無く当てもなく、ただ絵を描きながら過ごしていた。
壁に絵を描き、キャンバスに絵を描き……。
そんな人の世を捨てたような生活を送る事二年、気が付けばボクは謎の人物に拉致られ……。犯罪者を護送するような車の中に詰め込まれていた。
「誰」
「俺は
「そ」
どうやらボクらは良く分からん奴らの世話をする為に、世捨て人を拾い集めてきたらしい。
何ともふざけた話だ。ボクの体には何の価値も無い。
「お前絵描けるの?」
「ん」
「ならば俺の自画像を描いてもらおうか!どうだこの美ボディ!!」
「……」
ボクと一緒に来たのは……。少しナルシストだがいい人な、金って名前の人だった。
凄い筋肉ムキムキな人。……なんでこの人が世捨て人してたんだ?
「おいガキ、金になる絵を描け」
「それで描けたら苦労しねぇよ」
「なんだガキその目は!抵抗すると言うならその首に付けてる機械を……」
「ハイハイ分かった分かった」
まぁ、今のボクの雇い主は絵を評価してくれる。……主に金の目的であるが。
だがそれでも自由に絵を描ける環境があると言う場所があるだけで、ボクは満足していた。ボクの元の家に関しちゃ、絵なんて口にするだけでバカにされる環境だったからだ。
描くのは色を塗った絵だ。色が見えないが、適当に売れるだけの物なんかパパパッと描ける。
「凄いなぁ絵を描けると言うのは!俺は人を書くとミジンコになるぞ!」
「ただのゴミですよそれ」
「ハッハー!テキビシー!」
……概ね満足していた。ある日までは。
「金は?」
「ん?……どこに行った?まぁ良い、ガキ」
「な……ッ!?」
首に付けられていた機械は、血を抜くための機械だった。喉に刺されて呼吸も声も出せず、地面にのたうち回るだけしかできなかった。
「そろそろ食うか……。まぁ17歳が食べごろだろう」
「たっ……。なっ……ガブッ!」
「まぁあの筋肉ダルマは肉ばかりで食いでが無いだろ」
こいつらは……食人族だった。それも化け物の。
あぁ、ボクはここで死ぬのだと。
そう思った瞬間金は帰って来た。
「おいクズこっちを向け」
「は」
金は雇い主の顔を掴むと勢いよく床に叩きつけた。人の顔と言うのはあぁまでペシャンコになるのかと、的外れな事を考えていた記憶がある。
だがそれ以上に血が少なくなっているのを感じ続けていた。
「大丈夫か!?こ、コレか!コレを抜けば……!」
ひとまずの危機は去った。……でももう助からないと。
ボクは気を失った。
次に目が覚めた時、外は死屍累々になっていた。
食人族は殲滅。女も赤子も何もかも……皆殺し。
ザマァないと思いながら、ボクは金に話しかけてみた。
「金……?!」
『気が付いたか』
「金……!コレは……!」
『見ての通りだ。俺の喉を移植した。……俺はもう一生喋れない』
「……な、なんで……!?」
ボクは……金の喉を移植され生き延びた。
その後、その食人族を殲滅した奴と一緒にスラムと呼ばれる街をつくる手伝いを始めた。
主にボクの仕事は金稼ぎだ。
「コレでいいかな兄貴」
『おぉ!確かに俺の最強の肉体美が表現されているぞ!』
「……色はどうかな」
『色?ふぅん!色など好きなように付ければいい!
……ボクはそれ以来、人を色で見るようにした。
このモノクロの視界は相変わらず変わらない。けれども今はもう……違う。
「よっ銀。ところで最近お前でっけぇイベント開くんだって?絵の……」
「うん。ボクの絵を飾りたいんだってさ」
「へー。ところで代表作とかあるの?」
「……そうだね。ボクの代表作は……」
ボクはもう、二度と色を見失うことは無い。
ある画家の話 常闇の霊夜 @kakinatireiya
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