死んでも必ずお前(あんた)はあたし(私)がぶっ殺すっ!

kao

第1話

 神の戯れによって決められた運命に抗う者たちがいた。

 ここは神が作り出した全面真っ白な無の空間。そこに漆黒の髪と二本の角を持ち神を睨みつける女と金髪の髪を揺らし面倒くさそうな顔で神を見つめる女がいた。

 ︎︎二人は魔王と勇者――魔族と人間。この世界で数百年に渡り争ってきた種族達だ。しかし争っていたはずの種族が神の前に立ちはだかる。

 神に抗うなど愚かなことだ。神の目に浮かぶ感情は無関心。

「おい、クズ勇者ッ!! 最上級光魔法をポンポン打って来んじゃねぇよ!!」

「チッ……なんで死なないのよ」

「死ぬところだったわッ!!」

「じゃあ死んどけばよかったのに。アホ魔王を殺す気で打ったんだから」

「ほんとお前クズだな!てめぇこそ死ねぇぇぇぇ!!」

「なんで敵がいないこっち狙ってくるのよ!!バカじゃないの!?」

 二人はお互いを巻き込みながら攻撃してながらも、次々と神が作った傀儡てんしを倒していく。

 何回も何回も殺し合い、殺しかけ、殺されかけそれを繰り返した彼女達。お互いにどのタイミングで攻撃をしてくるのか予測し、避け、防ぎ、直撃してもものともしない。

 まともな協力体制とは言えない。相手を巻き込んだ上での攻撃だ。この程度で相手は死ぬわけがないという信頼があっての戦い方だった。

 むちゃくちゃだった。しかしそんなむちゃくちゃな戦いだったからこそ、神相手にここまで戦えたのだ。

 とはいえ、流石の勇者と魔王でも神相手に無傷なんてことはない。お互いに血を流しているし、体もボロボロだ。

 もう千回は死んでもおかしくない攻撃を受けながら、勇者と魔王は立ち続ける。

 いつ倒れてもいい程疲弊しきっているはずなのに、彼女達はダメージなんてなかったかのように戦う。

「このクズ勇者! てめぇサボってんじゃねーよ!」

「私はあんたと違って考えて戦ってんの。脳筋アホ魔王!」

「ああ? 誰が脳筋だ!!」

「力任せで戦っても無駄に魔力消費するだけでしょ? そんなことも分からないなんて脳筋どころか、全身筋肉ね?」

 ︎︎そんな軽口を叩きながら戦う姿に神ですら戦慄する。

 彼女達には勝ち目のない戦いだ。神相手に勝てるわけがない。実際、神にはまだまだ余力があるが、彼女達はボロボロの体で血反吐を吐いている。立ってることすら奇跡的な状態だ。

それなのに彼女達の瞳には光が消えることなく宿っていた。

「貴様らは、何故そこまで」


「「そんなのムカつくからに決まってるッ!」」


 勇者と魔王は口を揃えてそう言った。

「決められた運命? はッ、知ったことか。あたしはあたしの意思でクズ勇者を殺す。それがてめぇに決められたことって言うのが気に食わないだけだ」

「私は人類の味方だからね、神を倒せば世界が破滅する運命とやらを変えられるんでしょ? 私は全部終わらせて楽をしたいの。それに――」


「「こいつはあたし(私)が殺すッ!」」


 ただ相手を殺すためだけに、彼女達は立ち続けているのだ。そう、その意思だけでこの場に立ち続けている。

 このとき神は悟った。

 ︎︎勇者と魔王の相性は最悪だ。しかし――だからこそ最強なのだと。

 ︎︎何十分、いや何十時間が経過しただろうか?

長い戦いに決着がつこうとしていた。

「くくっ、ははははっ……いやぁ参った。まさか本当に神を超えるとはな」

 そこに居たのは消えかけてる神。しかしその表情はさっきまでのつまらなそうな表情とは変わり、嬉しそうだった。

「楽しめたぞ。このまま消えるのも悪くはない」

 ︎︎神は言いたいことだけ言ってフッと消えた。

「満足そう消えたのがムカつくな」

「ほんと神って自分勝手」

 ︎︎魔王と勇者はそう言いながら同時にその場に倒れた。

「おい、勇者死ぬんじゃねーぞ」

「あんたこそ」

 ︎︎そんな軽口を叩きながらも、お互いに気づいていた。もう限界であることに。

 ︎︎――あたし(私)は魔王と勇者が敵対することが決められた運命だと知って、この意思も覚悟も自分のものじゃないと言われるのは気に食わなかった。

 ︎︎この想いは他人のものじゃない、自分のものだ。自分だけのものだ。だから戦った。


――魔王の偉そうな態度が気に食わなかった。

――勇者の馬鹿にした態度が気に食わなかった。


 ︎︎嫌いだった。

 ︎︎戦う度に何度も言葉を交わす。いつもムカつくことしか言わないし、殺してやりたいと何度思ったことか分からない。

 ︎︎でも辛くて苦しいはずだった戦いの日々はにいつの間にかそれだけじゃなくなっていたんだ。

 ︎︎そしていつしかこの想いは自分にとって大切で守りたいものになっていた。

 ︎︎――魔王(勇者)がいてくれたから戦えたんだ。お前(あんた)がいてくれて良かった。

 ︎︎なーんて、本当のことは死んでも言わない。嫌いな奴にそんなことを言ったら一生からかわれるに決まってる。だから最期の言葉は決まっていた。

 ︎︎魔王と勇者はお互いに顔を見合わせ挑戦的な笑みを浮かべると、


「「死んでも必ずお前(あんた)はあたし(私)がぶっ殺すっ!!」」


 ︎︎口を揃えてそう言った。

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