15 - 圏外の陥落街ではいつも.exe
ADAPTした茉莉花はビルの鏡面ガラスを割ることなく吸い込まれるように通り抜けていった。それは鏡面に向かってゆっくりと浸水していくようであり、反対に 6.0 haven 側からは外部から浸漬してくるように茉莉花がその姿を現すようでもある。
実際には波紋を生じることさえなく鏡は瞬時にその姿を写抜いている。
通り抜けるや否やポータルに向かって再展着を済ませた。
茉莉花にとっては慣れた出で立ちであり、それがあたかも自然な装いとあっては依然状態も相当に進行しているといって過言ではない。
すぐ様、半身になって身を屈めると熾火で頭部から足元へ向けて火壁の如くリネンの放った矢を
「ここには貴方の求めるものはありません、カラム=シェリム」
「求めて来たわけではないんだ」
「では、何を抵抗するのです」
貴方に贈る讃美 —— 死追の矢紋 第9番 ——
6.0 haven ではリネンの動きを局面として捉えることは叶わない。
行動の始まり・実行過程・終わりはを同一動作と成し得る、全能の存在。
だがしかし、全ての矢を防ぎ切れないまでも、致命傷を許すほど茉莉花も遅れをとってはいない。
感などなくてもリネンが云う容を成すものは、そこはかとなく此処にはあるのが解る。そしてその容を成すものと、リネンが同一のものとなって繋がったのだろうという事も。ならば此処の全てが
融合とは進化ではなく一つの構成単位になることに他ならない。
「リネン 忘れ物だっ」
茉莉花が放り投げたのは展着したサンキャッチャー
滅するは幻黒燈火の翳り————
光のない 6.0 haven に膨大な光が銀河を映しだした。
サンキャッチャー捉えた炎心は集光を紡ぎつづけ、降り注ぐ光が更に呼応し合って無限の流星群を描きだしている。
【
光は
リネンは流星に置き去りにされた。
「私が …… ここまでき… 」
茉莉花も熾火で防いだとはいえ、ただでは済んでいない。
茉莉花は手をかざして放たれた矢を眉間に受ける。
「…… ADAPT せよ 」
矢は茉莉花の手にある筥迫の鏡を通り抜けるとすぐ近くのポータルから突き出してリネンのこめかみを射貫いた。
6.0 haven が文字通り消灯する前にあの改装中のダンス教室の鏡へ、あのポータルからと這いずる様に身を寄せ消灯する刹那の狭間、その身を抜写した。
そこにはクダチとコーラスの他に棒切れを持って構えている暁 一条が鏡を背にしている。
「茉莉花‼︎ 」各々が口にした。
何があったかは概ね察しがついた。
「ここを死守してくれて助かった、礼をいう 」
茉莉花の穴だらけになった異装が壮絶さを曝け出していた。
「着替えるから向こうをむいていて……くれないか 」
そう言われた暁 一条は何気に横を向いて視線を外すと、茉莉花は素早く異装を展着しなおした。
再生に注力している茉莉花に向かって暁 一条は聞いた。
「茉莉花ちゃんって天使なの?」
「残念だが違う。ただのセラフィムだ」
クダチが割り込み捲し立てる。
「茉莉花ーッ、大変だったんだぞっ &£$※£&$ ———— 」
いっぱい説明されて訳がわからない、だが何とかなって良かった
「茉莉花さん、無我夢中どうなるかと」
コーラスよく上手くやって退けたな、ありがとう
茉莉花は 6.0 haven が陥落したことを説明していると鏡にガブリエルが姿を表した。
「伝令です。haven からの接続が確立されました」
「お姉さんって茉莉花ちゃんの友達? 出てきてウチの店においでよ」
茉莉花は溜め息をすると
「ガブリエル、新しい避難所は見つかったのだな」そう言って続く言葉を求めた。
「速やかに帰還することをお薦めします。そちらの人間については、こちらにて対応しておきます」ガブリエルはニコやかに答えた。
「帰還はするがこの2名をレリジョンさせない、わたしの
「茉莉花、オレはオマエについていくよ 」
「茉莉花さん、わたしも一緒に行きます」
「ガブリエル、聞いての通りだ。この人については対応は任せるが尽力についての褒章を頼みたい 」
「俺もついて行くぜ。君のためなら何でもできると思うんだ、何かわからねぇけど 」
「そうか同じ意見で助かる。では、わたしのために少し寝ててくれ」
茉莉花の労りのボディーブローが、暁 一条を静かな眠りを誘う。
約束していた通り 礼をする
茉莉花は展着を解いた ————
ここで起きた出来事は記録として残されても、ただ埋もれていくだけなのだろう。誰にも読み込まれることもない、引き戻され開き見ることのない証跡の一つとして。
新たな haven が誘う、ポータルを潜り抜けたその先は ————
「茉莉花、アイツ、記憶をガブニヘラに消されたのは残念だったな」
「そうでもない、わたしはこう見えて押しに弱い」
クダチとコーラスが茉莉花をジト目でみている。
「茉莉花さん、あの人は何を願うのでしょうか?」
「わたし達は知らない方が良いのだよ」
暁 一条は店のソファーで目が覚めた。
「昨日の飲ませ放題キツかったな、片付け途中で眠ってたか…… ん?」
胸元に羽が乗っていることに気づくと親指と人差し指で柄をつまんで羽をクルクル回して眺めていた。
「必ず Destiny Nation でNo.1ホストになってやる」
そう誓うともう一度ソファーに寝転がった。
【
だからこうしてまた表れる
「伝令です、あなたの担当する地域は ————
———— には十分な配慮が必要です。
「—— ポータルに接続してください」
「条件が成立しました。ポータルに接続してください」
ガブリエルは繰り返して云う。
「
———— 都市熾天 完 ————
都市熾天 カザリナの月 @KAZARiNA_LUNA
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