第2話 邂逅、鬼神と少女(後編)

カーネリトをなんとか退け、ミルを抱え森の中を走り抜けるトキ。


だが追手はすぐにやってきたのだった。


フオォォォン!


「!」


風を切るような音が聞こえトキは振り返るそこには3人のADを装備した帝国の兵が迫っていた。

彼女らのADはバックパックに2基のローターとスラスターを装備した飛行型だった。


「そこの赤いADに警告する!今すぐ止まりなさい!止まらなければこちらも武力行使も厭わない!」


トキは帝国兵を一瞥するがすぐさま前を向き更にスピードをあげた。


「あのスピード…違法改造ADか!?全員ショックバレット装弾!ヤツの動きを止める!抱えてる方には当てるな!」

「「了解!」」


帝国兵たちが機銃をかまえ狙いを定める。

引き金を引くことを躊躇うことは無かった。


バラララララララッ!


銃口から水色の光が飛び散り、青い弾丸が2人に襲いかかった。

だがトキは周りの木々を利用し銃弾の雨をくぐり抜ける。

いくつか弾が命中したが、この弾は対象を捕縛するために威力を調整されたもの、

オウガとなったトキには少しこそばゆい程度のものだった。


このまま帝国兵を振り切り逃げようとしたが

そうは問屋が卸さなかった。

また、壁がトキとミルの前に立ち塞がった。

どうやら崖の下に出てしまったらしい。

「昨日もありましたよねこんなこと…!」

こくりと頷くミル。


「!」


跳躍し、ビームソードの一撃を回避したトキ。兵のひとりが足を狙い剣戟を放ったがあっさり回避されてしまった。

が、飛び上がり身動きを取れないところを別の兵が突っ込んできた。

トキは身を翻しミルを庇う。背中に一撃を喰らい、地面叩き落とされてしまった。

更にそこへ銃弾が注ぎ込まれる。

いくらダメージが少ないとはいえこの連撃はかなり堪える。


「観念しろ!」

「捕縛ネット射出します!」


機銃に装填された特殊弾がトキ達を捉える。


その時だった。








クオォォォォォン!!!




けたたましい雄叫びが木々を、地面を、空気すらも震わせた。


「この声…まさか!?」


「やっと来た…!」

動顛する帝国兵達

安堵の息を漏らすトキ

よく状況が分からないミル


「隊長、アレを!」


1人の帝国兵が空を指さす。



そこには巨大なグリフォンが羽ばたいていた。


鷲の頭、翼、前足を持ち、獅子の身体を持つ強大な獣、太古の時代から竜種と双璧をなす

偉大なる生物である。


グリフォンは眼下にいる帝国兵達に向かって急降下、遥か上空からあっという間に眼前にまで迫っていた。


「しまった!ここは奴の縄張りだったか!?」


「アクセル!」


「!?」


トキはグリフォンにそう呼びかける。

アクセルはトキの側へ降り立ちった。

「あの人たちなんとかおいはらえる?」

アクセルはトキの願いにこくりと頷いた。


アクセルは帝国兵に向き直りバサリと巨大な翼を広げる。

翼からは金属の擦れるような音が響いた。

「まずい!ヤツの動きを止めろ!」

帝国兵達が機銃をアクセルに向かい掃射するが、彼がそれを一切気にする事はなかった。


巨大な翼を更に大きくひらくほどに、金属音はさらに大きく周りを震わした。





グリフォンはその巨大な嘴のせいで肉食に思われているが実際は雑食性の生物だ。

更に肉食、草食に加え、鉱物食でもある。

幼少期は資源が豊富な鉱山に居を構え、そこで鉄鉱石を初めとする鉱物を削り取り摂取する。

そのため一見柔らかそうな羽毛はかなりの強度を誇っている。

彼らの武器は爪や牙だけでなくその翼そのものにあった。

羽毛同士を擦り合わせ火花をおこし、更に羽毛の間にある粉塵に着火し、翼に焔を纏わせる。

その翼を羽ばたかせ目前の敵を薙ぎ払う。


それがグリフォンを竜種と肩を並べる強者へと至らせた技

《火災旋風》である。


ドオォォォン!!!


激しい暴風と烈火が森の木々ごと帝国兵達を吹き飛ばす。

もはや爆発と言っても過言では無い威力を誇り、3人全員を無力化した。


「背中に乗りましょう!まだかなりの熱があります!私から降りないように!」


トキがミルをおぶさり、アクセルの背中に飛乗る。


「飛んで!アクセル!」

アクセルはその声に応え、その場から大きく跳躍、巨大な翼をはためかせあっという間に大空を舞い始めた。


「ずっと空を飛んでいたらすぐに見つかる…!どうすれば…!?」


「クオォ!」

「何かいい考えが?」


アクセルは凄まじいスピードで空を駆けていく。

森を越え山を越えて、景色は移り変わってゆく。


すると前方に岩肌が露出した山脈が見える。

その山脈の中腹には洞穴があった。

ひび割れたような開き方をしており、上下からは鍾乳石が生えている。

まるで鬼の口のようであった。


「あそこに入るの!?」


鍾乳石の間を器用にすり抜け、ほぼ暗闇の中を飛んでいくトキ一行。


途中、この洞穴を根城にしている獣たちが襲ってきたが、アクセルはあっさりと振り払った。

長い暗闇の中、生暖かい目で空気を感じながら飛び続ける。


「…!風の匂いが変わった!」


トキが声を上げる。


視線の先には白い光が見えた。

その白い光はどんどん近づいてくる。


2人の少女を乗せた荒鷲は、大空へと飛び込んでいった。


生温かい空気は上空の冷たく澄んだ風にあっさり吹き飛ばされ、陽が2人と1体を照らす。

下を見ればちょうど陸と海の境目を飛んでいる。

さっきまでいた森がある土地からはかなり距離をあけることが出来たようだ。しばらくは帝国の追手を誤魔化せるだろう。


「一旦あの街に降りましょう!あそこに行けば何かわかるかも!」


トキの指差す先には立派な港湾都市があった。

アクセルは身体を傾けその都市に降りていった。








場所は変わりここは湾口都市アルファダ、

そこにある市一番の名所であるデアン闘技場。



『決着ゥゥゥ!!第四十五回アルファダ市主催無差別級闘技大会は《蛮雷拳骨》のクラタス・ライヴァルカの優勝だァァァ!』


フィールドには2人の人物がいた。


片方は黒焦げに、

そしてもう片方は相手を黒焦げにした張本人

鋭く尖りボサっと深い藍色の髪をサイドテールに束ね、金色のラインが入った黒いコートを羽織っている。瞳は翠玉色の瞳はまだ闘争の熱を帯びていた。

相手を痺れさせたであろう蒼い稲光がいまだに彼女を取り囲むようにほとばしっている。

彼女こそクラタス・ライヴァルカその人である。


ライヴァルカは鼻をひくつかせた。


ナニかがくる。


良いモノなのか、悪いモノなのかは今はまだ分からない。


だが彼女のやるべきことは変わらない。

闘い、勝ち、金も栄誉も得なければならない。


守るにはいつだって金がいるのだから。






鬼神と蛮雷、出会いはすぐそこに迫っていた。







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鬼神オウガ ジョジョイビル @AZHTjojo0907

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