13話 チョキにはパーを
「ビスが生きてる!?」
「ああ、偶然ファルサの家に行ってる最中に会ったんだ。彼は酷く憔悴していたよ~。今にも倒れそうな様子だったからファルサの家で介抱しようと思ったんだけど……断られてね。まあ言う事を聞いてくれなかったんだ。俺が無理にでも連れてきたらよかったかもね~」
「そうですか……」
ビスを助けないと!絶対にあいつの事だから無理してるんだ。俺は心臓がドクドクと不安を煽るように動いているのがわかった。またベラみたいになっているかもしれないと思うと気が気じゃなかった。
「ビスが生きてる……」
ビスとの思い出が浮かんでくる。何故か心の底にずっと居続けているあのシーン。
幼い時の思い出。
――まだ、あの頃は、正しい暇の潰し方を知らなかったのだろう。退屈しのぎによく、1人でそこら辺の茶色い湿った土を手で掘り起こして、出てきたミミズを二つに千切っていた。細長い赤茶の体が千切れても動き続ける様子は幼いながらも滑稽だと感じていたのは、異常なのだろうか、それとも子供ゆえの残酷さなのだろうか。今の俺にはわからない。
――少し雲がまばらに青い空に散らばった天気の日も俺は1人寂しく、人気がない小さな雑木林でミミズを探していた。
「ミミズ。ミミズ……。ミミズ?ミミズー?」
茂った緑の草むらを掻き分け、大きな石を小さな手でひっくり返し、土を堀り……。
「ミミズ!ミミズ!」
小石を退けて、ミミズを捕まえてうにょうにょと蠢く様子をじっと見つめる。
「ミミズ……」
「――フリー!」
振り返ると明るい茶髪のやつが突っ立ていた。
「フリー、もっと楽しいことをしようや」
「だれ?」
「俺はビス・クラヴィス。ミミズを愛し、愛される男や。そやから、ミミズは虐めたらあかんで!」
「ああ、ごめん。退屈でさ。……ビスって言うんだっけ。よろしくビス」
「うん!よろしく。……ところでその手に持っているミミズを離してくれくれんかな。今にもミミズが千切られそうで怖いぞ……」
「たしかにそうだね」
俺は摘んでいた赤茶のミミズをそっと地面に落とすと、ビスはニコッとギラついた歯を覗かせ微笑んでみせた。
「フリー!俺の親友になれ!!――」
それからというもの、俺は太陽がギラギラと照った日も、ザンザンと滝のような音が一日中続く嵐の日も、辺り一体、コンコンと白一色の日も、ビスと一緒に遊ぶ仲になった。
またさらに時間が経つとベラとも知り合い、仲良くなって一緒に遊ぶようになった。
そしてある日……一緒にかくれんぼをしていた時だった。
「じゃあ、今日は裏山使っていいってこと?」
「そ。今日は特別に俺の親父から許可をもろたからなー。思いっきり楽しもう!フリー、ベラ!」
「久しぶりだな。裏山でかくれんぼ!」
最近は子供だけでは"化身"がどうやら"神"がどうやらで危険だからという理由でビスの家の裏にある山には入ってはいけない事になっていた。だから、この日の俺は「やっと裏山に行ける!」と最高な気分で、何でも出来るような気さえしているのだった。
俺たちは早速裏山へと向かい、木々が皆を上から見つける中、かくれんぼをする。
「じゃあー、じゃんけんで鬼を決めよー」
「そうだな……。じゃんけん――」
「パー」「チョキ」「チョキ」
ビスの1人負けだ。
悔しそうな……嬉しそうな顔をしてビスは俺たちに背中を向け、目を閉じて1、2……と数え始める。
「じゃあ、隠れるか!ベラ!」
「うん!」
鬼側に勝ち目は無いと思うほど広大な裏山には色々な隠れられる場所がある。例えば、今居る少し開けた場所から少し進むと廃墟になった村があるし、少し東の方に行けば洞窟も、川もある。
俺は勝ちを確信した。
「ベラ、廃墟の村にあるボロボロの家に行こう。ビスはきっと怖がって薄暗い家には1人でいけないだろ」
「フリー、ナイスアイディア!あそこでしょー?廃墟の村の外れにある幽霊屋敷」
「そう!」
ビスが追いつく前に早く隠れないと。足をひたすらに動かして幽霊屋敷に行く。走れ!フリー。
「やっと見えてきたぞ」
はあはあと荒い呼吸をして、がたがたになっている石道で立ち止まる。目の前には所々赤く紅葉した蔦だらけの家。赤い家根と広い庭が特徴だ。
いざ見てみると入ることが億劫になってしまう。だが、行くしかない。ビスには負けられない!!
「行こうベラ」
「うん」
家の中はボロボロで砂埃が舞っていた。本や家具が散らばり、ガラスの破片が散らばっている。怪我をしないように気をつけながら奥の方に進んでいく。
「ここが良さそうだよーフリー」
「ここか……確かにいいかもな」
ベラが提案したのは井戸の中。隠れるには危険そうだったが、井戸の中は思っていたより深くなく最適の場所のように思えた。
「うーん、この紐大丈夫かなー?」
「大丈夫だろ!先に俺が行くから、ベラは待ってて」
「うん」
少しずつ紐を握って降りていく。井戸の底は水が枯れていて唯一あるとするならば今居る家の前で撮られた男女2人の薄汚れた写真が落ちているだけだった。
「ベラー?来ていいぞー」
「はーい」
しばらく、俺たちは井戸の中で隠れていた。さすがにビスもこんな所に隠れているなんて思いもしないだろう。
「みーつけた!!」
ビス!?おかしい早すぎる……まだ数分しか経っていないのに。
「さすがに早すぎるよー!」
「へへ、こんな所に隠れるなんて……余裕すぎるぞ。どんなに盲目な奴でも見つけられる」
「さすがに敵わないよ、ビス!……というか何で見つけられたんだ?」
「それは、一回やっ――うゔん……まあ俺の勘やな!」
「?……そっか!」
ビスは昔から勘が鋭かった。色々な事を知ってたし、俺の喜怒哀楽全てを理解していた。ありえないほどの時間を一緒に過ごした最高の友、お互いを信頼し合える親友なんだ。
「……待ってろよビス。」
フリーは白髪の男と共にビスの元へと進む。
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