涙の色【KAC20247】
藤澤勇樹
第1話 青、赤、黒
◇ 涙の色:青
悠は窓の外を眺めながら、ため息をついた。
父の失業によって、家族はバラバラになってしまった。
母は働きに出て、弟は祖父母の家に預けられた。
将来への不安が悠の心を蝕んでいく。
「どうしたらいいんだろう…」
悠は呟くと、青い空に浮かぶ雲を見上げた。
夏の日差しが眩しい。
高校生活最後の夏なのに、悠の心は晴れない。
「悠、大丈夫?」
さやかが悠に声をかける。
「うん、何とかなるよ」
悠は曖昧な笑みを浮かべた。
真意を隠すように、悠は涙をこらえる。
その涙は、悠の瞳に青く輝いていた。
◇ 涙の色:赤
「今日も塾か…」
さやかは肩を落としながら言った。
大学受験を控え、勉強に追われる日々。
プレッシャーに押しつぶされそうだ。
一方で、片思いの相手との関係に悩んでいた。
素直になれない自分にイライラする。
「好きなんだけど、どう伝えたらいいの…?」
さやかは一人言のように呟く。
机に突っ伏して、さやかは泣き出した。
赤く腫れた目から、真っ赤な涙が流れ落ちる。
心の奥底にある痛みを、その涙は表していた。
「さやかってば、しっかりしなよ」
鏡に向かって、さやかは自分に言い聞かせる。
けれど、心の痛みは消えない。
◇ 涙の色:黒
「俺の音楽は理解されない」
隆は呟いた。
情熱を注いでいるのに、家族からは「趣味では食べていけない」と反対されている。
「誰も俺の気持ちを分かってくれないんだ」
隆は拳を握りしめる。
孤独感が隆の心を覆っていた。
部屋の隅で、ギターを抱えて座り込む。
弦を爪弾きながら、隆は目を閉じる。
音楽に没頭することで、現実から逃避したかった。
「俺は絶対に音楽を続ける」
隆は心の中で誓う。
けれど、その瞳からは黒い涙が滲んでいた。
夢と現実の狭間で、隆の心は引き裂かれそうだ。
涙の色は、それぞれの抱える問題や感情を反映していた。
青い涙は将来への不安、赤い涙は現在の苦しみ、黒い涙は孤独と葛藤。
三人の涙は、それぞれの色を帯びて流れ落ちていく。
やがてその涙は、真実の色へと変わっていくのだろうか。
夏の終わりが近づく中、彼らの物語は動き出す。
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