肌に書いた手紙
崇期
メロンパンな、ちゃんと
よしかずというすぼらしい男の物語がここにある。彼の人生にはどういうめぐり合わせか、豪胆な女たちがいつも寄り添った。
妻・
「ねえ、食パンにバターを塗ってトーストするでしょ? それに、シュガータイプのコーンフレークをどっさり乗せて食べるのよ。齧ってみて……ほら、メロンパンの味」
「ほんとだ、メロンパンの味だ」
よしかずはこのとき、食パン一本分の重さ以上の感動をおぼえた。カリカリとした食感もいいし、ぼろっぼろこぼれるのもご愛嬌と言ってしまえば収まる。
しかしこの日は少し胸がざわついた。
サンドウィッチが朝食に出され、切り落とした「耳」について一言もないとは思わなかった。
サンドウィッチを作るとき食パンの耳を切り落としたなら、それは当然油で揚げられ砂糖をまぶされ、おやつに出てくると当たり前のように予想していたよしかずだった。この男、自分じゃ台所仕事などしないくせに、今まで知り合った女がすべて才知にたけていたため、むだな知恵ばかり備えていた。
「パンの耳は? どうしたの?」
「ああ」寺子は答えた。「あれは冷凍したわ。ハンバーグを作るときに入れようと思って」
そんなバカな。
パンはハンバーグを挟むものであって、ハンバーグに入れるものじゃない。ハンバーグのつなぎなんて、ことさら必要とは思えない。
寺子は、家では揚げ物は極力やらない、というタイプの女だった。問えば後片づけがどうのこうのと言うのだ。
じゃあおれはこれから、自分で作らない限り、家で揚げ物にありつけないと言うのか。嫌だ。油はねるの怖いもん。
結婚式に出席したって、毎回天ぷらが出てくるわけではない。
外食にしたって、必ずとんかつや唐揚げを選択するわけではない。
よしかずの昼。会社近くの定食屋にて。日替わり和定食についてきたあさりのみそ汁をじっと見た。おれは事あるごとにヘルシーなものを注文しているな。
あさりの殻を指でつまむとあさりの身をはがし口に放り込み、その後、その殻を使ってみそ汁をすくった。ちょうどレンゲかなにかのように。殻にたまったみそ汁を口をすぼめて啜る。
これからは、外では揚げ物を食べるべきだ──。
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