最終話 300年後のここに

 そして5年の月日が経過した。


 その間、私たちの世界は大きく変わった。


 私たちの世界に、魔族が混じるようになったんだ。

 ……主に、ビストピア教国を中心に。


 大半は解放された祖国に帰ったんだけど、何人か残ったんだ。

 どうもこっちで、それなりに切れない繋がりが出来たみたいで。


 ……多分、元侵略者だから彼らを憎んでいる人たちはいるだろうけど。

 とりあえずは問題を起こさずに頑張ってるみたい。


 だからまあ、変な話だけど。

 あの大戦争は、私たちの世界では無駄ではなかったのかもしれない。

 それぐらいの、大きな変化。




 そして兄さんは新しいヘルブレイズ魔国の国家元首に。

 クロリスはその世話係になった。


 政治形態はヒウマニ共和国に近く。

 選挙をして議員を選び。

 その議員たちに、兄さんの前で議論をさせて政治を動かす。


 こういうの、リッケンクンシュセイって言うらしいけど。

 ……なんとなくだけど。

 兄さんの祖国の政治形態に似てるんじゃないかと思ってる。


 そして今日。


 私は5年ぶりに、ヘルブレイズ魔国への転移門を開く。

 兄さんに会うんだ。




 真言を唱えて空間に穴を開け。

 空間を跳躍し。

 私は兄さんたちの前に立った。


 ……5年ぶり。


 兄さんは魔王の玉座の間で玉座に腰掛け。

 その傍に、クロリスが控えている。


 兄さんは新生ヘルブレイズ魔国の国家元首に就任しても、格好はそのまま。

 黒い特殊なロングコート。


 クロリスも変わらず。

 黒い、執事が着るような男物の衣服。


 ……そしてその傍に。

 魔王ストウカナルの封印された姿があった。

 勇者の剣に腹を貫かれ。

 時間停止で硬直したその無残な姿が。


 その顔は泣き顔で。

 両手を失い、足がねじ曲がった姿。

 その状態でずっと、これからずっと永遠に固まっている。


 そんな無残な魔王に視線を投げた私に。

 兄さんが口を開いた。


「直接会うのは5年ぶりだな」


「お久しぶりです。兄さん」


 ……話自体は私はクロリスと使い魔を交換しているから、してるんだけど。

 こうして顔を見て話すのは本当に久しぶり。


 クロリスは少し嬉しそうで。

 兄さんもちょっとだけ嬉しそうだった。


「変わってないですね2人とも」


 私がそんな定番の言葉を2人に投げかけると


「当たり前だろ」


 まぁ、そうなんだけど。

 この2人は不老不死だから。


 でも、ちょっとだけ面白かったのか。

 2人が明らかに笑ったんだ。


 そして兄さんは


「さて、今日は何の用なんだ? いきなり、直接会いたいと言われて色々考えたんだが」


 玉座の上で、足を組みつつ。

 私の言葉を待ち受ける。


 私は


「……実は、来月結婚する予定です」


 そう、報告。


 ……兄さんの眉が上がった。


 多分、メチャメチャ驚いてる。

 こんなの、多分見ていない。


 そんな表情。


「……相手は?」


「国王親衛隊の騎士の男性と」


 笑顔で報告。

 今日はこれを言いたかった。


 使い魔の関係上、クロリスは知っていたけど。

 口止めをしておいたんだよね。


 驚かせたかったから。


「なるほど」


 相手の話を聞いて、安心したのかな。

 それ以上聞いてこなかった。


 そんな兄さんに私は


「……子供の1人に、宮廷魔術師を出来れば継いで欲しいと思ってるんですよね。私」


 そう、告白した。


 私は正直、恋愛にそれほど興味なかったから、恋人を作ることには積極的では無かったんだ。

 だけど


 ……これからの兄さんは、ヘルブレイズ魔国で永久に魔王の封印を維持するための仕事をするんだ。

 傍にはクロリスがいるけれど……


 1人だけ。


 私は人間だから、いつかは老いて、死んでしまう。

 ずっと一緒にいることは出来ない。


 だから……


 自分の子供が欲しくなったんだよね。

 私たちのために、色々決断してくれた兄さんの恩に報いるために。


 これはエゴかもしれないけど……望んではいけないんだろうか?


 兄さんは


「そうか」


 短くそう言って


 こう続けた。


「適性があって、本人も望んでいるならそうしてくれ」


 ……兄さん。


 私の言葉、ひょっとして兄さんには重かったのかな?

 そう思い、私は兄さんを見つめる。


 するとさらに。

 兄さんはこう言った。


「俺はタンザが存在した痕跡が残るだけで十分だ」


 ……私が子供を残そうとすることは、兄さんは喜んでくれている。

 それは間違いないみたい。


 分かった。


 分かりました。

 だから


「私、兄さんのことをしっかり子供に教えますから」


 私はそう伝えた。


 そして願わくば。

 300年後のここに。


 私の想いを引き継いだ誰かがやってきますように。

 それが私の子孫であるなら、なお良いけど。


<了>

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