第91話 バカ丸出し

 須藤の奴は刀をなかなか取ろうとしない。

 状況的に、取らないと助からないのが分かるだろうに。


 多分、このデザートイーグルが気になるんだな。


 なので俺は部屋の隅にそれを投げ捨てて。


 先に自分の分を抜刀し。鞘を速攻で捨てた。



 そこまでやって、やっと須藤は刀を取った。

 震える手で抜刀する。


 そして正眼に構えた。


 その様子から


 ……ポントウ握ったことないんだな。


 そこを察する。

 殺人経験はあるくせに。


「じゃあ、やろうか」


 俺がそう言うと


「その前に約束しろ!」


 須藤が何か言いだした。

 ……は?


「何を?」


 一応聞いてやる。

 すると


「お前に勝てれば僕を解放することだ!」


 呆れた。


 ……アホか?


 勝ったら俺からは逃げられるんだから必然的にそうなるだろ。

 何故そんな意味のない約束を俺と結ぼうとする?


 それに


 お前の約束を守らないことで、俺に何の不利益がある?


 その時点で、お前の要求なんて何一つ聞き入れる価値がないということが分からんか?


 ……こいつ、これでよく弁護士になれたな?

 自分が関わると、IQが下がるタイプなんだろうか?


 だけど


「分かったよ」


 俺はそう言った。


 バカ丸出しの発言だけど。


「……この果し合いの間に、自分が何故狙われたのかを理解して……」


 言いながら、俺も刀を正眼に構え。

 こう続ける。


「俺を説得できる言葉を言えたらな!」


 ……利用はできる発言だったからな。




「僕は罪を償ったんだッ!」


 正眼から俺の手を狙って斬撃を入れてくる須藤。

 雄叫び代わりに、大声でそんなことを言いながら。


 小手か。

 事前に俺の刀を横に弾くあたり、剣道のお手本だ。


 まあ、お前はそれしかしてないしな。


 俺は弾かれた方に足を運び


 そのまま脇構えに似た形に構えを変え

 抜き小手の形で、そこから胴薙ぎを敢行。


 剣道ではこんな動きは無いからな。

 俺の剣は須藤の腕を掠めた。


 ギリギリで回避が間に合ったんだ。


 ただ一筋の傷をつけるだけで留まる。


「ぐああああっ!」


 須藤の悲鳴。


 大げさな


「……お前のようなクズにめった刺しにされた姉さんは、もっと苦しかったんだよ」


 この一言でこのバカも理解できたらしい。


 俺が何者であるのかを。


 真っ青になって震え始めたんだ。


 ……クズが。

 絶対に許されないと理解できて、絶望したか。


 腹の底から、嗤いが込み上げてきた。




「僕は彼女を心底愛していた! 世界中で一番愛していたんだ!」


 俺の正体に気づいた須藤が発狂したように斬りかかってくる。

 その斬撃は大振りだ。


 実は、これは別に須藤のせいじゃない。


「須藤家の花嫁として最適な女性だと思った! 僕の両親だって納得してくれる最高の女性だった! なのに!」


 剣道はスポーツなので気合を重視する。

 動きをコンパクトにまとめると、気合が足りないと減点対象になるんだ。

 別に馬鹿にするわけじゃないけどな。


 実戦では、気合の動きなんて攻撃を大振りにさせるだけなんだけど。


「あんな弱そうで、かっこよくもないゴミみたいな男が好きだという! 酔っぱらって真実が見えなくなってると思うのが当然だろう!」


 だから俺には須藤の攻撃を捌くのは余裕だった。

 踏み込みのスピードだけは気をつけなければいけないが、大上段を背中に回るほど振りかぶるような攻撃は流石に当たらない。


 捌きながら、言い返す。


「ゴミはてめえだよ」


 するとさらに発狂した。

 俺に突きを出してくる。


 こう叫びながら


「何がだ!? 僕はあんなのになにひとつ負けてない! 僕が現れたら僕を選ぶのがどう考えても正しい!」


 俺は突き出した剣を身を逸らして避け、思い切り弾き飛ばした。


「やかましいキショクワリィ怪物がッ!」


 こう言い放って。


 俺は間合いをバックステップで離し。

 剣を右手に引っ提げ、左手を懐に入れた。


 ……秘密兵器を取り出すために。


 それは……


「それはッ!」


 須藤の目が見開かれる。


 知ってるのか。

 ありがたい。


 俺は躊躇わず、それの安全ピンを抜いて須藤の目の前に放り投げた。


 ……円筒形の無力化武装。


 閃光手榴弾。

 ……スタングレネードを。

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