第57話 人間市場と品評会

 人間市場に辿り着いた。


 そこには大きな屋根付きステージがあり。

 そのステージを囲むように、沢山の椅子が並んでいる。


 その椅子に、男女それぞれ沢山の人間が腰掛けていて。


 ……そしてその全員が、下卑た顔つきをしていた。


「まあ、予想通りではあるな」


 キリサキさんはその様子を見て、呟く。


 ……言いたいことは分かるよ。


 あの周りを固めている男女は、繁殖用父母にまず選ばれなくて。

 加えて、食用人間を仕立てることに賛同して、手を貸すことを是とした人間たちなんだから。


 相応しい光景かもしれない。


 それよりも


 ……繁殖用父母が飼われている場所はどこなんだろうか?


 市場の近くにあると思ったんだけど。

 ここを破壊しても、繁殖用父母の飼育場を破壊できないと意味がない。


「どこに飼育場あるんだろう?」


 皆で見回したんだけど……


 どうにも、そんな大量の人間を飼育できそうな大きな建物が傍にない。

 ただ、たくさん馬車が停まっている。


 空の、馬車が。


 ……ということは


「飼育場は別なの?」


「その可能性が高いな」


 私の呟きに、クロリスが応えた。

 それは……


「キリサキさん」


「なんだ?」


 一応、見解を訊く。

 プロの人の見解を。


 それは……


「ここで暴れて、関係者に飼育場の場所を吐かせて乗り込む方法は上手くいくと思いますか?」


「暴れているときに飼育場に伝令兵が走ったらアウトだな」


 ……ですよね。


 私たちがここに来れたのは、人狩り連中を一気に一網打尽にしたからだし。

 それをこれだけの人数相手に実行するのはちと厳しいよ。


 だったら……


 私の頭の中に最悪の想像が流れる。

 流れるけど……


 仕方ない。

 現状、これしか思いつかないから。


「ねえ、クロリス」


「なんだ?」


 私は彼女に声を掛けて、説明した。

 私の考えていることを。


 彼女にも出来れば協力して欲しかったから。




「ちょっと良いか?」


 キリサキさんがそう、会場の掃除をしている男に歩み寄り、声を掛ける。

 男は掃除の手を止め、キリサキさんに顔を向け


「なんすか?」


 そう、応じるけど。

 キリサキさんの


「この女2人を、人間市場の品評会に出したいんだ。大丈夫だろうか?」


 そんな言葉を聞くと


「おお! 2人ともレベル高いですね。是非次の品評会に出してみましょう」


 嬉しさを隠そうともしないで、男はそう言い。

 私たちにねっとりとした視線を送った。


 ……そう。

 これはほぼ、最終手段での作戦。


 私たち自身が、繁殖用父母の品評会に出場して選ばれて。

 こいつらの手で、飼育場に案内してもらうこと。


 私とクロリスは、前でその両手を縄で縛られて、強制連行風のスタイル。

 そんな姿でここまで引っ張って来られたんだ。


 これしか……無いから!

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