第30話 死刑囚・赤井房雄
キリサキさんの世界では、こっちの世界の錬金術がこっちより遥かに進んでて。
バケガク、と呼ばれているらしい。
アカイはその道のエキスパートの男で。
それでとても地位の高い研究者だったそうだ。
性格は真面目で、几帳面。
で、自他ともに厳しかった。
「……そんな人が何でそんな死刑囚になったんですか?」
なんというか。
前のオトヤマのときとは違って。
アカイの人物像を聞いて好感を覚えてしまった。
立派な人じゃない。
なのに、何で……?
そんな風に困惑する私に
「アカイの口癖を教えるよ」
私の何が間違っているのかね?
これなんだ。
へ……?
キリサキさんは続けた。
「正しさって、色々あるよな」
うん、それはそうだと思う。
私だって、宮廷魔術師になるまでに、色々あったし。
国家魔術師の試験を受けるときに、他人のサポートを一切しないで自分を高めることに一生懸命な子もいたし。
反対に、周囲の子で低い位階で伸び悩んでいる子の躓きを分析して、サポートしている子も居た。
どっちが正しいかなんて、多分分からない。
それに……
「悪を成したからと、全否定して徹底的にこき下ろして排除していいというものでもないよな」
うん。
それもそう。
正当化は無論できないけど。
人間はときに悪を成す。
私だって、さっきのお風呂でクロリスの身体を興味本位でジロジロ見てしまったし。
これだって良くはないよね。
「……赤井はそういうのが分からない男だったんだよ」
所属している会社で、その能力の高さと真面目さ、モラルの高さで。
出来る人間には高く評価され、支持された。
けれども一方。
出来の良くない人間は徹底的に正論でたたき伏せ、追い込んだ。
その結果、何人も精神を病み、そのうち1人が自殺した。
そこで問題になり、会社に居られなくなり、辞職。
その後数年の沈黙期間を経て
政党「社会正義党」を立ち上げた。
公約は「自分の信じる社会正義の実現」
……なんというか。
知能は高くても、頭が悪い人だったのか。
それでどうなったんだろうか?
「そしてその後、選挙に打って出て、惨敗したんだ」
勝算はあったみたいなんだけどな。
その後、アカイがテロ行為を行う際、手下になったのはそのときの政党の構成員だったわけだから。
つまり、自分がここまで支持されているのだから、きっと選挙にも勝てるはず。
そう思ったのか。
……ヒウマニ共和国の人なら彼のこういう行動、正しいかどうか分かるのかな?
ヘブンロード王国は選挙がないから良く分かんないや。
まあ、それはそうと
「それでテロを起こしたんですか? 自分たちを受け入れない社会の方が間違ってるって考えて」
「……まあ、そうだな」
なんというか……
「知能が高いだけで、ただ真面目な人って怖いんですね……」
そう、キリサキさんの話を評すると。
キリサキさんは何も答えず、部屋を出て行ってしまった。
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