第23話 こうして三大美姫、爆誕


「次はわたしの番ね」


そう言いリアサが一枚の用紙を手に取る。


「この学校での恋愛を禁止してください、リア充が憎いです、ですって」


「「さんせーい」」


「反対だよ!」


俺と優女が賛同したら即座に浅川が反対した。

俺がラブコメできないのにどうして他人のラブコメを認めなきゃいけないのか?

度量が狭いと自覚はあるが、ここはリアサに賛成だ。


「わたしは恋愛よりも勉学に励むほうがより将来の為になると思うのだけど?」


真面目なリアサらしい考えだ。

誰よりも清廉潔白で孤高の女王さま感を醸し出すリアサには、恋愛は必要のないものなのかもしれない。

ただ俺にはリアサは恋愛のよさをわかってないだけのような気もする。

まだ恋心を育む土台やきっかけができてないのか、中学までの陰キャぼっちだった俺を見ている気分になる。


「恋愛は大事だよ? 今しかできない青春の思い出だよ?」


「「「はあ~」」」


「三人とも、その反応なに!?」


俺こと青木春斗は、恵奈に振られてから悟りました。

期待するだけ無駄、損、アホ。

恋愛なんて理性の弱い連中がするものだ。

もし今の俺の精神状態でいつか恋愛をする時が来るとすれば、それは婚活が必要になったときだけだろう。

いつか俺を養ってくれる優しくて可愛い女性を見繕って楽して見せる。

今度は都合がいいだけの男にはならない。

ま、結婚願望は今のところないけど。


「なんで? なんでみんな否定的なの?」


「俺は自分以外が幸せになることが許せないっ」


「器ちっさ……優女さんは?」


「わたしは最近、百合とBL本読んでるんだけど……」


「うん?」


「わたし、あの友情と愛が混ざったあの感じが好きなんだよね、だからわたしは現実でそれが見たいの、男女の恋愛はドラマで十分なの」


「じゃあこうしましょう」


リアサがパンと両手を打ち鳴らす。


「男女の恋愛は禁止にして、百合とホモは認めましょう」


「いや意味わかんないよ!?」


はい決まり~。

この学校での恋愛のルールがたった今誕生した。


「どんまい浅川、短い間だったが、折田とは楽しんだか?」


「そうだね、わたしたちも残念だよ、あれだけ応援したのに、こんなことになるなんて……」


「二人とも笑ってるじゃん! すごい性格悪い顔してるよ!」


俺と優女はニヤニヤが抑えきれていなかったようだ。

ああ、俺も残念だ。

あれだけ応援して頭まで下げたのにこんなことになるなんて!

ああ~悲劇だ、浅川と折田が可哀そうだ!

二人の友人としてとっても、とっても心が痛むっ……。


「「笑♪」」


「すごい楽しそうだね二人とも……」


「まあ、冗談はここまでにしましょうか」


「え、冗談!?」


リアサのもっともな意見に何を驚くことがあるのか。

浅川の反応にリアサが呆れる。


「恋愛を禁止にしたら生徒から反感を買うだけよ、わたしには理解できないけど、必要なものなのでしょう」


「な、なんだ~、リアサさんもそこは理解してたんだ」


「当たり前でしょ」


さて、ここからは二周目だ。

俺は紙束から一枚の紙を出す。


「じゃあこれは? この学校の三大美少女ならぬ、三大美姫を決めたいと思います。お勧めの女子生徒を紹介して欲しいです。ちなみに事実上の一位も決めて置きたいそうだ」


俺がこれを読み上げ、顔を上げると三人の纏う雰囲気が変わっていた。

三人とも顔は笑っているが目が鋭い鷹の目をしていた。

俺は圧に推され後ろに数歩下がってしまう。


「この学校の三大美姫って言ったら、決まってるよね?」


浅川がリアサと優女に話を振る。

リアサは右手で髪を弄り始め、優女は腕を組み頷く。


「そうね、これはもう決まったようなものだけれど……」


「そうだね、でもちゃんとした確信がないからなあ」


二人ともはっきりしない。

俺は察した。

この三人、それぞれ自分が三大美姫に選ばれることを確信しながら、それを自分の口から言えないのだ。

恥ずかしさか、はたまたプライドか。

三人が俺を見てくる。

なにを言わせたいのかピリピリ伝わってくる。

仕方ない。ここは俺が折れよう。


「そうだな、三年の上野先輩とか可愛いよな?」


「「「は?」」」


「すいませんやり直しますぅっ」


こっわ! なに今のドスの効いた声!?

この三人、どうしても自分の名前を言わせたいようだ……。


「もうあなた方三人が三大美姫でいいんじゃないですかね?」


「さすがお兄ちゃん! わかってるぅ!」


「あなたが言うならそうなのかしらね……」


「青木兄君が言うなら仕方ないかあ」


「……お前ら……」


優女は俺にグジョブとし、リアサは髪を指に巻き付け、浅川は仕方なさそうにはあと両手を合わす。

三者三様わかりやすっ。


「じゃ、次、この学校一の美少女だね」


優女のセリフを聞いて俺は背筋が凍った。

自分で言い出しといてなんだが俺はなんて馬鹿な要望を読み上げてしまったんだと後悔している。

だってまた三人の視線がこっちに向いてるんですもん!

こえぇ~! 超こえぇ~!

これ俺が一番を選ばないといけないの?

一人を選んだら他の二人に消し炭にされない?

だって三人とも高火力攻撃法の持ち主だし!?

まあ、残った二人もそこまで子供じゃないだろう。

そうだろう。


「三大美姫を決めて十分じゃ?」


「お兄ちゃん、ここはお兄ちゃんのカッコいいところを見せてよ」


「そうね、あなたにはこういうときどういう判断を下すか、興味あるわ」


「青木兄君……わかってるよね?」


三人の視線が痛い。

だがここで答えないと俺が俺を許せなくなる。

俺は優柔不断な男ではないのだ。

素直に一番可愛いと、綺麗と思った相手を選べばいい。

だから、


「優女かな、俺の妹は世界一可愛い」


「やった~愛してるぞおにいちゃ~ん!」


そう言って優女がガバッと抱き着いてきた。

それをうまく受け止め俺は一仕事終えた風に額の汗をぬぐう。


「この男、家族愛に逃げたわね」


「シスコン……キモい」


二人の視線はきつかった。

だって仕方ないじゃん。

リアサの凛とした美しさも、浅川の安心感ある可愛さもいいが、俺には優女が見慣れて安心できる。

本当に正直に答えたつもりだ。


「これどうするんだ? 本当にこの三大美姫って設定、定着させるのか?」


「させましょうか……ここまで考えたんだし」


「そうだね、わたしの女神パワーでそういう噂を作り出すよ」


「ふふふ、このわたしが学園一の美少女! いよいよわたしの時代がやって来たあー!」


「あっ、学園一の美少女って設定の噂は作らないから」


「なんでえー! どうしてそんなことするんだ浅川さーん!」


俺も浅川に賛成。

学園一の称号をゲットした優女に男が群がることを想像するだけで殺意が湧く。

そんな状況になることを俺は望まない。


まだまだ俺達の会議は終わらない──。

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