赤いカエル
広之新
プロローグ
それは満月の夜だった。サングラスにマスクをした若い男が3人、古い屋敷に忍び寄っていた。彼らは周囲を警戒しながら軽い身のこなしで塀を越えて庭に入った。そして一人の男がバールのようなもので静かに戸を外し、もう一人の男がその戸をどけると同時に、3人目の男が中に侵入した。その連携はかなり手慣れているように見えた。
男たちはまず奥の部屋に向かった。その部屋でこの家の主人、金谷茂三が寝ている。男たちはふすまをさっと開けて、寝ている茂三をすぐに縛り上げた。
「な、何するんじゃ!」
「静かにしろ!」
男の一人が「パチッ」と茂三の頬を叩いた。
「金庫はどこだ?」
「教えるもんか! 儂の金じゃ! びた一文、渡さんからな!」
茂三はそう怒鳴った。すると男が今度は拳で殴った。茂三の口の中が切れて血が口から出た。
「さっさと教えないと殺すぞ! 俺たちはこれまで10人以上は殺した。お前も殺されたいのか!」
男が茂三の胸ぐらをつかんだ。その迫力に茂三は本当に殺されると思って震えていた。
「お、教えます・・・」
「ようし! 金庫の場所とその開け方を・・・」
金庫は奥の部屋の押し入れにはめ込まれていた。男たちは茂三から開け方を聞いて大きな金庫を開けた。
「おお! すげえ!「
男たちは感嘆の声を上げた。中には札束がぎっしり詰め込まれていた。
「億はありそうだ。このじいさん、ため込んでいやがったな」
男たちは札束を持ってきたカバンに入れ始めた。その様子を茂三は惜しそうに見つめていたが、ついには我慢ができなくなり、
「もって行かないでくれ! お願いだ! この金は儂の命だ!」
と大声を上げて暴れ始めた。
「うるさい! このじじい!」
男の一人が茂三を蹴とばした。すると茂三は倒れて転がり、その頭を壁で打った。
「ううっ!」
茂三の額から血が流れていた。男たちは笑いながら言った。
「はっはっは。いい気味だ。黙って寄こせば痛い目をしなかったのにな。この金は俺らがもらってやる。この業突く張りじじい!」
男たちは札束の詰まったカバンを担いで屋敷を出て行った。
ちょうどそこに通りかかる大人と子供がいた。2人は楽しそうに手をつないで歩いていた。
「ゴメンネ。オソクナッタネ」
「ううん」
東南アジア系の女性と5歳くらいの男の子だった。その女性の職場からの帰りなのだろう。2人は屋敷の角を曲がろうとしていた。そのとき女性のスマホが鳴った。
「チョット。マッテネ」
女性はかかってきた電話に出て話し始めた。男の子はそこにしゃがみこみ、退屈そうに足元の石を動かしていた。その時、バタバタと走る大きな足音が角の向こうから聞こえた。男児は角から顔を出して見てみた。すると大きなカバンを背負った3人の男が屋敷の門から出て行くところだった。その一人だけ、電灯に照らされてその顔が暗闇に浮かび上がった。その男は門のところでサングラスとマスクを外していたのだ。
「泥棒?」
男の子はその男の顔をはっきり見たのだ。
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