見たら死ぬ色

さめ72

 

「『見たら死ぬ色』という噂をご存知ですか」


「はあ――こう、『見たら死んでしまう絵』とかではなく、ですか」


「ええ、『色』です、色」


「ううん……それは……聞いたことがないですねえ」


「ですよねえ」


「そもそもですよ、人間の歴史とは即ち『見る』という行為――即ち『色』の歴史でしょう。そんな色があるならとっくに禁忌になっていますよ」


「そうですねえ。文化芸術だけ見ても、顔料に始まり、デジタルの世においてはカラーコード等々、人間は『色』の再現に対して並々ならぬ執着を抱いてきました。

その中から見過ごされる『色』があるとは、到底……」


「では、なんですか。いま我々は『ない』ものの話をしているというわけですか」


「そう慌てないで。いやね、私は逆にこうも思うんですよ。『死ぬ前に見る色』があるとしたならば、その要件を満たすんじゃあないかと」


「それは――つまり、どういう?」


「例えば、僕は登山が趣味なんですがね、山肌から滑落したことがありまして。

骨だの内臓だのがボロボロになった時は死ぬかと思ったなあ。

運良く助かりましたが。

血が流れるほど視界がドンドン暗くなりまして、思えばアレは『死の色』と言えるのかもなぁ、などと思いまして」


「ああ、そういう――いやしかし、僕は逆ですねえ。

僕は体が弱い上に酷い貧血持ちでしてね、バッタリ倒れる直前なんかは目がチカチカして、こう、バアーッと真っ白になります。

要は瞳孔散大が始まってしまってるという事なんでしょうが、あれが僕の思う『死の色』だなあ」


「ははあ、なるほど……詰まるところ、人や環境によって見える色は異なる、という事ですか」


「死というものは空なんでしょうね。そもそもそこに色はないのに、人はそこに色を見出そうとする」


「空白こそが死、まるで小説の登場人物ですなあ」


「ハハハ、間もなく見られますよ、そろそろ800字ですから」


「……ああ、本当だ、名残惜しいなあ。しかしなるほど、この色が









































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