彼女には秘密の彼女たちとのイケナイ関係

柊咲

第1話 あなたの家に泊めて



※訳あり彼女たちとセフレになり、その関係を他ヒロインに秘密にしながら進んでいくが勘付かれてドロドロしていく物語です。






「来栖、ご両親はなんて?」


「仕事が忙しいそうです」


「……そうか。本来なら、ご両親にも話を聞いてもらいたかったんだがな」




 午前中に終わった入学式の名残がまだ残る学校。

 生徒たちは午前中で帰り、静まり返った教室で来栖夜斗くるすよるとは、これから担任になる先生と向かい合って座っていた。




「怪我させた相手のうち二人は軽傷だが、もう一人は……全治一ヶ月の重傷だ。本当なら退学、いや、少年院送りになってもおかしくなかったんだが」




 担任は大きくため息をつく。




「お前が怪我をさせた向こう三人が、この件は大事にしないでほしいと言ってきた。警察にも届けは出さないそうだ。──なあ、なんで殴ったんだ?」


「……」


「だんまりか。何か理由があるんじゃないのか? 先生、お前が暴力を振るったお相手とも話したんだ。向こうは酔っぱらっていて覚えていないと言っていたが、何か隠しているんじゃないかって思った。もちろん暴力は如何なる時でも駄目だ。だがそこに少しでも正当な──」


「──ムカつくから殴った。ただそれだけですよ」




 夜斗のはっきりとした言葉に、担任は何か言いたそうにしていた口を閉じる。




「何か理由があれば、もっと停学期間も短くできたんだがな。……わかった。お前は今日から停学だ。期間は二カ月。終わったら、学校に来い」


「はい」




 夜斗は小さく返事をすると立ち上がる。




「入試の後、職員会議でお前の素行の問題で受験の合否を出し渋っていたとき、お前の中学の担任の先生から連絡をいただいたんだ。そのとき、中学時代にもこういう暴力沙汰はあったと言っていた」




 だが、と担任は言葉を付け足す。




「根は誰よりも優しい性格なんだと何度も言っていた。暴力という手段を使うときの大半も、仲間を助ける為だって」


「他に褒めるとこがなかっただけですよ」


「かもな。だが向こうからわざわざ電話してきたんだ。本当に手の付けられない生徒なら、普通はそんなことしないだろ」


「……」


「そのお陰で、内申書で素行が悪いとされていたお前はうちに入学できたんだ。中学時代の先生に感謝しろよ。それと、高校からは暴力は無しで頼むぞ?」




 高校には停学と退学っていうのがあるんだからな。


 担任は苦笑い浮かべてそう言った。

 夜斗は小さく「はい」と返事をして教室を出た。




「あれ、君は確か」




 教室を出てすぐのところで、一人の女子生徒が立っていた。




里崎優枝さとざきゆえです。新入生代表で挨拶させていただきました」

「そうだった。でも、どうしてこの時間に学校に? もしかして教室に忘れ物でもした?」


「いえ」




 優枝は夜斗に視線を向ける。

 



「彼と少し、話をさせてもらってもいいですか?」


「え、来栖と?」


「入学式にいなかったので。同じクラスメイトとして話をしておきたいんです」

「あ、ああ、構わないよ。こっちの話しは終わったから。それじゃあ来栖、手続きなんかは君の家に送るから」




 そう言い残し、担任の先生は職員室へと戻って行った。

 夜斗も帰ろうと歩き出す。




「待って」




 そんな夜斗の背中に彼女は声をかけた。

 だが足を止めようとも返事をする気もなく、夜斗は歩き続ける。

 走って追いかけてきた彼女は、少し距離を空けて隣を歩く。




「どうして、本当のこと言わなかったの?」


「本当のこと?」


「……あなたが暴力を振るったのは、私が酔っぱらいに絡まれていたのを助けたからだって」




 申し訳なく思っているのか、優枝は俯きながら聞く。




「言ったところで、別に停学期間が少し短くなるだけだろ」


「それでも」


「それにあの真面目そうな担任のことだ、もし本当のことを話していたら向こうに話を聞きに行っていただろ。連中に『夜の街で女子高生相手に援交の金額交渉をしていた』なんて吐かれたら、それこそ警察が関わってめんどくせえだろ」




 そう言うと、優枝は黙った。




「どっちにしてもめんどくせえことになると思ったから、何も言わなかっただけだ。それに、お前だって大事になってほしくなかったんだろ?」


「……ええ」


「安心しろ。あの場にお前がいたことは俺も連中も言ってねえよ」


「ありがと」




 どうせ、余計なことを先生に言っていないか心配だったから、こうして話し合いが終わるのを待っていたのだろう。

 夜斗はそう思い、話しが終わったと言わんばかりに帰ろうとした。




「ねえ」


「あ?」




 足を止めて振り返ると、優枝は迷いながら夜斗に聞く。




「あなた、一人暮らし?」


「は? そうだけど」


「……じゃあ、お願いがあるの」




 少し前を空け、彼女は言う。




「──あなたの家に、泊めてほしいの」



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