番外編【スノウドロップ】

京野 参

前編

はじまり


 暗がりの中、ざわざわ、と音がする。

 人の声とも、風のそよぎとも聞こえるが、できることなら後者がいいと願った。


 カン、カン──

 木槌を打つ乾いた音が響くと、そのざわめきは一瞬にして止んだ。


 ──お集まりの皆さん、お待たせ致しました。

 それでは本日この場かぎりの目玉商品をご覧に入れましょう!


 男の人が、拡声器を通して声高々言うと、熱い光の下に晒されるような心地がした。


 決して良いものではない。

 この温もりが太陽の光だったら、先までの騒めきが単なる風のそよぎだったら、本当によかったのに。

 現実は違う。と言っても、ここでいう現実とは、たまに見てしまう夢の中だと思うけれど。「またこの夢か」と、少しうんざりした。



「"神に愛された天使、あらゆる傷を治療する祈りの手を持つ少女"──」



 司会の言葉に合わせて、私の"売り文句"を小さく口ずさむ。



 ──ここはオークション会場。

 今見ているのは、その時の記憶、その夢。


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