真異世界誘拐事件録 第2巻
明智吾郎
ChapterⅠ 抗争
第1話 はじまり
日本最大の暴力団組織・最上組。
その新幹部である牧本は、人通りの多い西成の街中に構えられた大きな事務所で、引っ越し作業に追われていた。
古びた木造の建物には、染みついた煙草の匂いが漂っている。
牧本は段ボールを持ち上げ、数名の部下とともに黙々と家具を運び込んだ。
「……こんなもんか」
一息つき、デスクに腰を下ろす。
半年前――異世界軍勢の侵攻。
世界を恐怖に陥れ、多くの命が奪われたあの事件で、牧本も仲間を失った。
胸の奥で、怒りと悔しさが渦を巻く。
人間の恐ろしさを、必ず思い知らせてやる。
そんな思いを抱えながら、埃をかぶった段ボール箱を開いた。
中に入っていたのは、仲間たちと笑顔で写る写真の数々だった。
「どうか……見ていてください」
写真を額に当て、牧本は静かに涙をこぼした。
半年前 午後11時 大阪府・最上組大阪支社
夜の大阪の街。
突然、腹の底に響く衝撃が連続して街を揺らした。
建物の壁が砕け、窓ガラスが粉々に散る。
悲鳴を上げながら、人々が四方八方へ逃げ惑う。
その混乱の中心で、SATが黒いローブに身を包んだテロリスト集団と銃撃戦を繰り広げていた。
「クソ……らちが明かない!」
当時刑事だった釜野は、リボルバーを構え、ローブ姿の一人に向けて引き金を引いた。
テロリストは両手をビルへ向け、光を帯びたエネルギーの塊を放つ。
それは建物に直撃し、爆炎と衝撃波を撒き散らした。
偶然にも、その一撃は最上組大阪支社を捉えた。
「こっちです! 早く!」
出張中だった最上を、唐松が車へ誘導する。
その直後、事務所は激しい爆発に包まれ、炎が一面に広がった。
「ぎゃあああああああ!!」
飛び散った火炎が人々を襲い、唐松たちは身体を焼かれ、地面に倒れ込む。
「あっつ……!」
最上は歯を食いしばり、その場から走り去った。
直後、ローブ姿のテロリストたちは、まるで最初から存在しなかったかのように、突如姿を消した。
この抗争で、多数の死者と負傷者が出た。
後に世間は、この事件を「大阪未知事件」と呼ぶことになる。
「入るぞ」
声とともに扉が開く。
「田崎さん! お疲れ様です!」
牧本たちは一斉に頭を下げた。
田崎は部屋を見渡し、頷く。
「だいぶ片付いてきたな。朝礼を始める、最上さんのところへ行くぞ」
最上啓介――最上組の組長。
殿様のような装いをし、拉致した一般人を残忍に拷問することを娯楽とする男。その姿は、まさに悪魔だった。
会議室にはすでに、各支部の幹部たちが集まり、椅子に腰かけている。
「遅ぇぞ、田崎」
「すみませんね、新人教育してたもんですから」
「組長が入られます!」
その声と同時に、全員が立ち上がり、歩いてくる組長へ深く頭を下げた。
最上は不機嫌そうに、長机の先に用意された玉座へ腰を下ろす。
「……今回の件よぉ。元からワシらの領地だっただろうが。奪われたもんを取り返しただけで、何一つ得てねぇじゃねぇか」
先日、別のヤクザに支社を乗っ取られた事件。
最上組は抗争の末、それを奪還したばかりだった。
「おめえら、本気で日本を取る気あんのか?」
最上は無造作に拳銃を構え、近くにいた部下へ向けた。
乾いた発砲音が室内に響き、部下の頭部が撃ち抜かれる。
床に崩れ落ちる身体。
組員たちは言葉を失い、凍りついたように立ち尽くした。
「我々の力不足です。申し訳ありません」
山崎が震える声で頭を下げる。
だが最上は、急に満面の笑みを浮かべた。
「……けどなぁ。おめえら、喜べ」
何もない空間へ、両手を突き出す。
次の瞬間、空間が歪み、円形のゲートが出現した。
「昨日、急に使えるようになってな。その先を覗いてみたんだわ」
「そしたらよぉ……ぶっとい尖った耳の連中の街が広がってやがった」
「腰抜かしたわ。なんじゃこりゃってなぁ。でもよ、あのローブ共の住処に間違いねぇ」
「行く気ですか?」
牧本は、抑えきれない興奮を滲ませながら尋ねた。
「当たり前だろ。カチコミに行って、皆殺しじゃぁ!」
最上組は、異世界侵略へ向けて動き出した。
同刻 東京・新宿 警視庁マル暴捜査本部
訓練道場。
「オラァ!」
釜野は新人捜査官・新田を豪快に背負い投げにした。
床に叩きつけられた新田は、顔をしかめて起き上がる。
「いてて……少しは手加減してくださいよ」
「甘えるな、新田。相手は日本最大のヤクザだ。いつ戦争になってもいいよう、鍛え続けろ」
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