第7話 神の山

「君たち、今、粟餅あわもちしかないけど食べるかい?」


 僕の問いに『タベル!』『ぜひ!』とうれしそうに答えて、ふよふよと、僕の後をついて来る妖精姉妹。

オモチと姉、妖精の彼女たちは、何故僕に姿を見せるのか?

 じいちゃんと、父さんに餌付けでもされたから?

 いや、実は何か裏があるのではないか?

 そもそも妖精なのか?幽霊?妖怪?何なんだろう。

 僕はこの不思議な現象を受け入たけど、疑問は解決したい。そのためこの妖精姉妹をもてなしちょっと話を聞いてみようと思った。


「ちょっと待っててね。粟餅作ってくるから」


 オモチたちに座敷席で待つように言ってから、妖精2体のご機嫌を取るために、僕は粟餅を作りをはじめる。エコバッグにガサガサと手を突っ込み、ふもとで買ってきた調味料の中から蜂蜜を取り出す。


「よし、これで、蜜を作るぞ」


チチチチッボンッ


 僕はガスコンロに火を入れた。

 小鍋に蜂蜜大さじ2を入れて、コンロの上に置く。そして、弱火で小さい泡が立つまでかき混ぜ続ける。


(僕の勝手なイメージだけど蜂蜜は熱加えると、サラサラになるから煮詰めて粘度合わせるの難しいんだよな。上手くいくと良いけれど)


 僕はハチミツをかき混ぜながらスプーンですくい、粘度を見ていたがハチミツはサラサラのままで変化しない。


「変わらないな?もう少し火を強くしてみるか?」


 コレがいけなかった。少し強火にした時、シュオッと一気に泡がたった。


「やばい!」


 僕はすぐに鍋を火から下ろした。かき混ぜるスプーンの感触はサラサラのまま。しかし、少し香ばしい匂いがする。スプーンを上に上げ、冷ますと糸を引いた。スプーンですくったハチミツは、徐々に冷えて固まっていく。


(くうっ!飴になっちゃった。もう一度だ)


 僕はひえて飴状になったハチミツを丁寧に剥がして洗い、もう一度材料を入れた。

 二度目の挑戦。

 蜜が飴にならないように慎重にかきまぜる。ほんのり色が着いた。なべを火から下ろす。


「うん、コレならいいか。ただ、妖精の好みかどうかわからないけどね。さて次はモチだ」


 僕は、違う小さな鍋をコンロにかけて湯を沸かしはじめた。湯が沸いたら、粟(アワ)の切り餅一個を半分に切って湯に入れて、粟餅を柔らかくしていく。


「さてと、皿を出さないと」


 僕は粟餅をお湯に投入したあと、皿を用意して柔らかくなるのを待った。


「よし、もういいだろう」


 柔らかくなった粟餅を鍋から取り出して皿に乗せる。その上から先程作ったハチミツ蜜を粟餅にかけて何とか完成だ。


「はい、お待たせ!」 


 僕は出来上がった粟餅を、オモチと赤ツツジに持っていった。


「ウマ!ウマウマ」


我慢出来ず、いきなり食べだすオモチ。


「いただきます」


 手を合わせてから食べる赤ツツジ。


(姉妹でも全く違うな)


 顔を蜜だらけにしながら、手づかみで食べるオモチ。爪楊枝を上手く使ってキレイに食べる赤ツツジ。本当に全く違う。


「ウマイ!デモ!ベトベトチガウ!」


「え?気に入らなかった?」


 僕は眉を寄せてオモチに聞き返す。ただその僕の質問に代わりに答えたのは赤ツツジだった。


「これ、この山のハチミツじゃないですよね?先代も、先先代もこの神様の山で取れたニホンミツバチの蜜を使ってました。この山で取れた物でないと私たち妖精は力が出ないんですよ。味は美味しいですけど、蜜の分ちょっと評価は低くなりますね」

「えっ!そうなのか?」

「はい。私達妖精がこの茶屋の食べ物を好むのは美味しくて妖精力が補充されるからですから……あっ.でも粟餅自体はこの山産のアワを使っていますよね?高評価です」

(フウ。蜜は失敗したけど思わぬ情報が入ったな。この山に神が宿っているのか)


神がいて神の御加護があるとするなら、妖精達が見えるのもわからなくもない。


(理由としては飛躍し過ぎてるけどね)


僕はもう少し詳しく聞いてみた。


「その神様って氏神さまのことか?」

「はい、そうです。今は、お休み中ですが」


あっさり答えたオモチ姉。別に秘密でもないらしい。


「本当か?神がいるのか?見た事あるのか?!」


まるでおとぎ話のようである。目を丸くする僕。


「ええ、古くから神はいますよ。今は弱くなった力を溜める為に、眠りについておられますがね」


うやうやしく胸に手を当てお辞儀する赤ツツジ。


「オバチャン!ネテル!」

「コラ!神様に失礼です!」


 オモチは神様のことを『おばちゃん』と呼んで怒られた。オモチは神様を仲の良い知り合いとでも思っているのかも。


(なるほど。力が弱ってるから、代わりに妖精たちに活動させて、何かさせようとしているのか)


 続けて赤ツツジに話を聞くと神社を祀るこの集落の者に対して、『力を貸すように』と神が妖精たちに指示していたらしい。


「で?力貸してやるから集落の者に神社を守れと?」

「いえ、そんな交換条件はありません。『最後の住人を大事に』と言われただけですので」

「オモチ、キイテナイ」


 姉妹はそろって否定した。この姉妹見てると怖い理由じゃなさそうにも感じる。この山に神の加護があるだけで有り難い事だし、こんな不思議な現象を他人に話したところで鼻で笑われるだけだから、特に害がないのならばこのままで行ってみようかな。その上で本当に御利益があれば神様へのお礼を考えよう。

 僕は半ば自分を無理やり納得させて、さっき話に出た、この山産のハチミツについて質問をしてみた。


「さっきの話だけど、僕はこの山のハチミツが欲しい。じいちゃんが、どこで採取してたのか教えてくれないか?」


 ハチミツを採るには、巣箱を使うのは知っている。どこかに巣箱があるハズだ。


「先先代のニホンミツバチの巣箱なら、岩壁の近くにありましたよ」


 姉の赤ツツジは祖父から受け継ぐニホンミツバチの巣箱が設置してある場所を知っているという。


 『アルアル』と付け足すオモチ。まあ、オモチは知ったかぶりしてる可能性が高いと思うけど。


(じいちゃんの遺産か……コレは見つけないと)


 僕は翌日朝から、ニホンミツバチの巣箱を探しに行く事にした。それが終わったら母屋で、わらび餅のレシピを探そうか……そんなことを考えていると、なんだか熱っぽくかんじる……。

 座敷の机に目をやると、なんだかんだ言いながら粟餅を食べ進めるオモチと姉の赤ツツジの笑顔がある。そして、それを見る僕のまぶたが重くなって閉まって行く。

 頭が『ボゥッ』となり、次第に意識が朦朧としてきた僕は、座敷の机にもたれて寝てしまった。

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