心のささくれ。

崔 梨遙(再)

1話完結:2000字。

 僕は、子供の頃、母に支配されていた。小学生になって、僕は友達を少しずつ作り始めていた。なのに、母は僕の交友関係にうるさかった。


「中居君と遊びなさい」


 中居は嫌われ者だ。僕も嫌いだ。僕は石田という同級生のグループに入りたかった。だが、母に、


「僕、中居は嫌いやねん」


と言っても、


「中居君と遊びなさい」


母は繰り返すだけ。母が中居の母親と仲が良かったという、ただそれだけのこと。それだけのことで、僕は友人を母に決められてしまった。


 中居はとんでもなく躾されていない爆弾野郎だった。同じマンションだったのだが、まず、玄関チャイムも鳴らさず勝手に家に入ってくる。そして、勝手に冷蔵庫を開け、牛乳やジュースをグラスに移さずに口飲みする。食事時に来たら、


「なんで僕の分は無いの?」


と、駄々をこねる。とにかく、付き合うとろくな目に遭わなかった。しかも嫌われている中居と遊ぶと、僕まで仲間はずれにされそうになる、危ないところだった。


 僕は担任の先生(50代女性)に相談した。


「僕、中居君と遊びたくないんですけど、母が中居君と遊べってうるさいんです」

「中居君のいいところはどこ?」

「中居君にいいところは無いです」

「じゃあ、中居君のいいところを探してみようか?」

「探しません。探したけど見つかりません」

「でも、崔君が中居君と遊ばなくなると、中居君は本当に独りぼっちになっちゃうよ」

「僕には関係の無いことです」

「先生は、崔君やったら上手くやれると思うけどなぁ」

「先生、僕はそんな言葉は聞きたくないんです、先生から母に、僕が中居君と遊ばなくてもすむように言ってもらいたいんです」

「そんなことしたら、中居君がかわいそうやから、崔君も後悔するかもよ」

「後悔しません、もういいです。話になりません、失礼します」


 先生は、僕を上手く丸め込もうとしただけだった。そんな手に引っかかるものか、小学1年生を舐めるなよ! 教師によって、心にささくれが出来た。



 小学3年生になった。担任が代わった。20代半ばの女性教師になった。


 或る日、上級生の藤村が、僕達下級生を公園でいじめて揉めた。僕は現場にいたが、何も言わず、何もしなかった。直接何か言われたわけでもなく、何かされたわけでもなかったからだ。


 翌日、緊急学級会が開かれた。“藤村君の横暴について、どう思うか?”ということだった。進行は委員長の僕だった。


「はーい、みんなで頑張ったら藤村君もおとなしくなると思います」

「はーい、クラス全員で藤村君と話せばいいと思います」


「昨日、現場には、誰がいたの?」

「「「「「はい!」」」」」

「崔君もいたの?」

「はい、いました」

「崔君は藤村君に何か言えた?」

「僕は何もされなかったし、何も言われへんかったから、何も言ってないですよ」

「先生、悲しいわぁ、上級生で怖くても、言いたいことが言える男の子になってほしいわぁ。先生は、男の子は腕白なくらいの方が好きやなぁ」

「……わかりました、先生は腕白が好きなんですね?」


 その日、クラス全員で藤村を問い詰めた。藤村はおとなしくなった。


 それから、僕は腕白坊主に変わった。授業中に騒ぎ、みんなでイタズラをする、時には喧嘩もする。そして、宿題はしない。(宿題は、元々しないが)


「崔君、なんでイタズラばっかりするの?」

「先生が腕白になってほしいって言うたからです」

「そんな……私が悪いみたいやんか」

「みたい、じゃなくて、先生が悪いんです。僕も、悲しいわぁって言われた時、泣きたくなるくらい悲しかったですよ。先生、泣いても許しませんよ」


「崔君、なんで宿題せえへんの?」

「宿題は、勉強が出来ない人がやればいいんです。勉強が出来るなら、やる必要が無いからです」


 その頃からかなぁ……その女性教師も、ビンタ(体罰)をするようになった。また、漫画みたいにバケツを持たされて廊下に立たされたこともある。バケツの水を捨てて、空のバケツを持っていた。この先生のおかげで、また幾つか、教師による心のささくれが増えた。



 小学5~6年生。担任は、20代半ばの男性だった。


 とにかくビンタで解決する先生だった。


 一度、5人が並んだ時、


パン!

パン!

パン!

パン!

パンパン!


何故か最後の僕だけ往復ビンタだった。


「すまん、勢いや」


いやいや、絶対に悪意があったやろ。


 その男性教師は、女子から嫌われていた。中でも、1番先生のことが嫌いで、1番反発していた竹本さんが、或る日、帰りのホームルームで立たされた。


「竹本が今まで態度が悪かったことを謝るまで、みんな帰らせへんぞ」


 僕は言った。


「先生、これ、脅迫ですよ、脅迫」

「崔、来い」


パン!


「これ、竹本さんが泣いて終わりのパターンでしょう?やめましょうよ」

「崔、来い」


パン!


 結局、竹本さんが泣き出して、先生が慌ててみんなを帰らせた。


「やっぱり、泣いたやんかー!」



 この教師も、数多くの心のささくれを作ってくれた。だが、今にして思えば、教師と言っても20代の半ば。教師という肩書きだけで期待し過ぎたこちらも悪かったかなぁと思う。だが、なんでもかんでもビンタで解決するのはどうかと思う。







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心のささくれ。 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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