3.「真意はどこにある?」
「それじゃ、本題に入ろうか」
救世主の名も知れたところで、魔術師はそのように切り出した。
彼が口にした本題とは即ち「果たして
だが、ハインラインの質問に対し、答えは予想だにしないところから返ってきた。
「(その疑問に答えよう)」
「な……なんだ、誰の声だ……!?」
唐突に語り掛けてきた何者かの声に対し、ローウィンは驚き、
一方、聞き慣れたキボウはともかく、魔術師にも動揺は見られなかった。
「(全ては神の意思に
「──神々ではなく?」
「(神々ではなく)」
超然とした気配が遠ざかっていく。
……風に乗って聞こえてきた声は、それだけを言い残していった。今のは果たして満足のいく答えだったのか、ローウィンはおろか、キボウですら分からない。
すると、魔術師は小さく笑った。
「ある種の人間にとっては神とは
ハインラインは解説を続ける。
「……
「主神と従属神に違いがあるっていうのか?」
ローウィンが半信半疑に尋ねる。魔術師は肯定した。
「ご
そう言い、ハインラインは
「……ま、それはもしもの話だったけどよ。けど、こうして自分の目で確かめるまで心配事ではあったんだぜ?
「アンタの目的は、それを確かめることだった?」
「まぁ、そうだね。偽物なら始末するところだが──」
『……確かめてみるか?』
「旦那!?」
「混在種とはいえ、魔と人は
「待てよ、旦那! あっちから襲ってくるならともかくこっちから喧嘩を吹っ掛ける必要はないだろう!? そりゃ、あいつが気に食わないかもしれないが、けど、穏便に済ませられるならそれにこしたことはない……違うか?」
ローウィンは慌てて敵対行動に出ようとしたキボウを止める。
……口にしたのは建前だが彼の本心でもある。本音を言えば、例え二人がかりでもこの魔術師に勝てる気がしないからだ。
勝ち目のない戦いはしないのが、傭兵として生き延びる鉄則でもある。
『悪いな……』
「あまりキボウの旦那を
『……ローウィン、剣を』
この時、ローウィンには己を剣を貸し渋る選択も出来た……だが、子供のように駄々をこねたところで戦闘は避けられず、ただ状況が悪くなるだけだろう。大人しく
「……一人じゃないのはいいことだ。仲間に恵まれたな」
『世話にはなっている』
「自覚があるなら恩を
『覚えておこう』
ローウィンの長剣もいざという時、両手持ち出来るように柄を特注していた。
キボウは愛剣同様に長剣を両手で持ち、中段に構えて相対する。
魔術師も杖の中程を左手で持ち、戦闘態勢を整えた。
……距離は大股で五歩。会話こそ出来る距離だが、剣士としては面倒な立ち位置だ。飛び掛かるにはやや遠い。あと少し、間合を詰めたい。
「剣士ってのは不便なものだな」
──ハインラインは無造作に後方へ跳躍すると着地を待たず、空間に
だが、この場から去った訳ではない。最初と同じように姿を消したのだ。
『……またそれか』
──しかし、対処法は
あの透明化は視覚の
手品も種が分かってしまえば、位置を割り出すのは造作もない。
キボウは迷いなく、一直線に突進する!
振りかぶった剣を一閃すると、辛くも杖で受け流すハインラインが姿を現した!
「なんだ、もう対応したのか? 予想より早いじゃないか。なら、これなら──」
魔術師は隙をついてキボウの腹を蹴り、距離を離すとまたもや隠れる。
だが、今度は透明になった瞬間、完全に見失ってしまった。
(どういう理屈だ……?)
前方、左右。そして、後方。周囲を見回しながら探る。
……少し手こずったが、どうということはない。空間の綻びを
キボウがそちらに向かって斬りかかろうとした直前──
何を思ったのか、魔術師は自ら姿を現し、
「成る程……見破れるようにはなったが対処としては及第点だ。目に頼るだけじゃ、まだまだだな。いい機会だ、お前に学ばせてやるよ」
『……何?』
「あの姿を隠す魔法は
ハインラインは解説する。
「この違い、
『しかし、付与魔法であれば──』
「……そう。付与魔法であれば話は別だ。例えば
──
彼の言葉がまったくの出まかせでなければ、最大三種の魔法で防御していることになる。
(だが、それがどうした)
一旦、切り結んだ以上は勝ち目が薄かろうが命がけになろうが、関係ない。斬って捨てるまで挑み続けるだけだ。彼の闘志は
「……根性でどうにかなるほど
『なんだと?』
「お前の底力が見たいのさ」
そう言って、ハインラインは不敵に笑った。
*****
<続く>
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