第2話

 家を出た拓哉は、庭に植えてあるチューリップのための肥料を買うため、ホームセンターへと向かった。このチューリップは妹の明日香が、球根から一から育てた大切なチューリップだ。愛する妹が育てたチューリップは拓哉にとっても大切なチューリップなのだ。


 ホームセンターに着き、お目当ての肥料を手に取ると、拓哉はそれを購入すべくレジへと向かった。


「1,300円です」


 素晴らしい営業スマイルと共に、決して安くはない値段を掲示された拓哉は、ポケットに入っている財布を取り出した。


 チャリンチャリン


 金属の何かが落ちる音が聞こえた。何が落ちたのか不思議に思い下を見ると、見た事のない鍵が落ちていた。周りを見回しても、拓哉と店員以外は近くに誰もいない。


「なんだこれ?」


 拾い上げたそれをまじまじと見ていると、店員から声をかけられてしまった。


「あの、お客様。料金を早くお支払いいただけますか?」

「ああ、はいはい。すみません」


 拓哉は急いで支払いを終えると、鍵を持って外に出た。拓哉は帰りながら鍵をまじまじと見つめながら考える。

 ——俺、こんな鍵持ってなかったよな?なんで俺のポケットに入っていたんだ?

 

 鍵を見つめながら歩いていると、突然、鍵から青っぽい半透明のウィンドウが出て来た。


「うお!?」


 そのウィンドウには以下のことが記されてあった。


------------------------------------------------------------------------------------------------

ダンジョンの鍵  

所有者:鈴木拓哉

入手難度:SS

鈴木拓哉の家の庭のダンジョンを解放するための鍵。解放したダンジョンには鍵の所有者以外立ち入ることが出来ない。

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 おいおいおい、と拓哉は思う。とんでもないものを手に入れてしまった。この変なウィンドウに表記されていることを信じるなら、拓哉は自分専用の特殊なダンジョンを解放するための鍵を入手したという事だ。そんなアイテム、聞いた事もない。だが、よりによってなぜの鍵なのだろうか。


 拓哉にとって、ダンジョンは忌々しい場所でしかない。常人と何ら変わりのない力しか持たない無能力者。それが拓哉なのだ。普通のハンターなら喜んだかもしれない。自分専用のダンジョンの中で好きなだけ修業をすることが出来る、と。だが、拓哉にとってはどうだ。魔力総量1の男が魔物相手に修業などできるわけがない。その前に殺されてしまう。


 そのため、拓哉はひどく落胆した。こんな鍵でダンジョンを解放した所で、何のメリットもない。いつの間にか家に到着した拓哉は、チューリップに肥料を与えるべく、チューリップが植えられた花壇に向かった。


 それは突然起きた。


 拓哉が花壇に向かっている途中、突如として握っていた鍵が発光し始めたのだ。握っているにもかかわらず、光り輝いているのが分かるほど強く発光した鍵にびっくりした拓哉は、思わず鍵を落としてしまった。無能力者はビビりなのだ。


 と、次の瞬間、発行した鍵はふわりと浮かび上がり、拓哉の目の前まで飛んできた。そして、鍵が勝手にくるりと、まるで鍵を開けるような動作を行った。すると、ズギュゥゥゥゥンだかブオォォォォンだかよく分からない重低音が鳴り響くと、目の前には赤黒い光が渦を巻き、ダンジョンへの入り口が開いた。


「……え?」


 いきなり解放されてしまったダンジョンを見ながら、拓哉はうろたえる。そりゃそうだろう。解放したくもなかったダンジョンが勝手に解放されてしまったんだ。だが、解放されてしまった以上、どうしても中に入りたくなってしまう拓哉。E級ハンターは心に矛盾を抱えているのだ。


 急いで家の中へと戻り、武器を手にした拓哉。その際、妹から、どこに行っていたのかと声をかけられるが拓哉は返事をすることなく、急いでダンジョンへと戻った。


 ごくりとつばを飲み込みながら、拓哉はダンジョンへと足を踏み入れた。

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