第89話 魔王だからといって、形態変化で遅延行為してくるのは流石に酷いと思う。



[『風切技:輪転吹崩』]


[称号『超重溜息迫撃砲』の効果が発動します。]

[溜息の回数を測定……2894回。]

[威力の計算を算出……倍率、5894倍。]

[称号『超重溜息迫撃砲』の効果が発動しました。]


 剣を思いっきり振り回しながら、骸骨に掠りでもして欲しいと願う。

 しかし、やっぱりあと一歩のところで毎度届かない。

 本当にモヤモヤする。

 このバカ火力を防げてるあの骸骨にも問題があると思うが、そもそもこの骸骨の討伐ってグランドシナリオとかいう恐ろしく面倒そうで物騒なものだもんな。

 ……そりゃあこんなに戦ってて辛いわけだ。


 よく考えたらクラスメイトの前で技名を言うのは恥ずかしくないか?

 生きるか死ぬかの場面でこんなことを考えてる時点で、かなり感覚をバグらされてしまったということを実感する。


 俺……いらなくねって展開早く来てほしい。


 いきなり変なことを考えてるが、これも仕方がない。

 なぜかって? そりゃあ戦い疲れてるからだろ。


 もう、ボロボロである。

 いくら精神を回復させれるとはいえ、限度がある。

 記憶から辛いなんてものがこれ以上増えたら、より一層俺は終わってしまう。


[『風切技:豹疾翔』『剣聖技:霆奏穿』]


[称号『超重溜息迫撃砲』の効果が発動します。]

[溜息の回数を測定……2894回。]

[威力の計算を算出……倍率、5894倍。]

[称号『超重溜息迫撃砲』の効果が発動しました。]


 それは正直言って最悪だ。

 どれだけ悲惨な光景が思い浮かぶのかと思うと、恐怖心でろくに想像すらできない。

 強耐性を持っていてそれでこのザマとか本当に酷いな。

 持ってなかったら多分精神的に死んでると思う。


 叡智によると、たまに呼び出される亡霊や死骸たちは無理やりこの骸骨の命令を聞いてるらしい。

 それを見るに、俺が負けた場合には、俺の再生能力と叡智と通知の元締めの抵抗が相まって無限の拷問が始まるのは紛れもない事実だろう。


[マスタースキル『無限拷問』を獲得しました。]


 はぁ……そしてこのままだと七割の確率で俺は負けて、無限の地獄を味わう目になる。


[マスタースキル『無間地獄』を獲得しました。]


 それ、そもそも漢字違うし……はぁ……

 ……しかし俺にはもう、この骨を倒すための手段が残されていないのだ。

 そもそもの話当たらないし、当てられたとしてもスキルで耐えてくる。

 そしてまた次当たるまでに完全回復してまた次当たっても耐えてくる。

 多分この繰り返しになるだろう。


 ある意味で無限耐久戦の始まりである。

 そんなの絶対に嫌なんだけど、どうにかしてくれません?


[エクストラスキル『無限持久力』を獲得しました。]


 そういう意味じゃない。

 あと地味にマスタースキルとか上位のスキルをネタで入れてくるのやめてくれます?

 本当に物騒だし、強くなりたくないから。

 だって強くなったらよりヤバい奴に巻き込まれるんだろ?

 そんなの分かってんだよ。

 今までのパターン的にそうじゃないか。


 絶対に嫌だからな。

 やっぱり祝福って呪詛だよ呪詛。

 呪詛以上の何ものでもない。

 これは祝福なんて大層なものなんかじゃない。

 表し方は多分大層というより危険で物騒なものだ。

 よく言う取り扱い注意みたいなのに違いない。

 いや、取り扱い注意どころか、隔離案件である。


[スキル『取り扱い説明書レベル1』を獲得しました。]


 絶対にこの能力を制御できるやつに渡すべきだったって。

 少なくとも俺みたいな1高校生が持っても持て余すだけだろ。

 叡智がいなかったら多分、能力の正体すら気づかずに死んでただろうしな。

 そう聞くとますます呪いだなこれ。

 絶対にもっと主人公格に渡すべきだったろ。

 とはいえ、攻擊の手を緩めない訳にはいかない。


[『風切技:藍嵐斬』]


[称号『超重溜息迫撃砲』の効果が発動します。]

[溜息の回数を測定……2894回。]

[威力の計算を算出……倍率、5894倍。]

[称号『超重溜息迫撃砲』の効果が発動しました。]


 ……倒れた?

 え……こんなあっさり……

 でも魔王だしな……形態変化を残してたりして……

 沙耶だって疑似魔王だけど形態変化持ってたわけだし。

 本物の魔王のコイツが持っていない訳がない。


 その瞬間、辺りにモヤが掛かった。

 薄暗く、それでいて瘴気で満ちている。


 あ、やっぱりこれって……


――グァァァァァァ


 巨大で禍々しい気を放つ竜が咆哮と共に現れた。


 やっぱり形態変化だよね。

 うん、知ってた。

 ってことは……次はコイツ物理タイプか?


 それなら物理干渉無効のおかげで効かないから、まあなんとかなるけど。

 憶測の領域に過ぎないんだよな……沙耶の例に当てはめてるだけだし。


 ……でも物理タイプに形態変化して、それでこの鬼畜骨ローブの攻擊が効かなくなったとしても結局それってただの作業ゲーなのでは?

 辛いことには間違いないのでは?

 絶対に苦しむこと間違いなしなのでは?


 そう思うと一気にやる気が無くなってきた。


 仮にこれでこの骸骨野郎を倒したとして、あと何回形態変化を残してるかすら分からない。

 数年復活ループの可能性も……怖っ。


[マスタースキル『蘇生の円環』を獲得しました。]


 あ、それは安心感あるかも。

 まあ一旦この話は置いておいて、取り合えず敵の基礎ステータスだけでも鑑定を……やはり物理タイプ……つまり結局は作業ゲーという訳か。

 想像する中で一番良い結果なんだろうけど、素直には喜べないな。

 

 ……今日は別の意味でも最悪な日になりそうだよ。

 まあもう今更感はあるにはあるけど……それでも嫌なもんは嫌だなあ


「はぁぁぁぁぁぁ……」


 できるだけ早くこの地獄が終わることを祈りながら単純作業という名の戦闘をする覚悟を決めるのだった。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る