第39話 この幼馴染の頭がどこまでも狂っていると思うことは、至って普通のことだよな。




 ……何か重いものが伸し掛かっている。

 ……なんで俺はこんなことになっているのだろう。


 確か、俺はスキル効果を読み違えてそれで……

 うん。思い出してきた。

 そうだったな。

 アホみたいな恒例の通知の嵐に精神が限界になってぶっ倒れたんだよな……

 沙耶は相変わらず自分の世界に入ってたし。

 もう少し他人にも目を向けるべきじゃないか?


 それも見過ごせない大問題だが、今一番の問題は……

 この謎な体勢だ。

 うつ伏せの姿勢で固定されたまま宙に浮いている。

 しかも周りを見渡す事も出来ない。

 そして何故か感じる四脚のようなものが上に置かれた感触。

 たまに聞こえる鼻唄……


[スキル『送迎車レベル1』、『自動走行レベル1』、『土台レベル1』、『鼻唄レベル1』を獲得しました。]


「……はあ」


 今まで心の内で耐えてきたのに外でまで溜め息が出るようになってしまった。

 俺はなんでやさぐれた社会人みたいになってしまっているのだろう。


[スキル『社畜レベル1』を獲得しました。]


 うっさい。

 俺、まだ高校生なのになぁ……


「……はあ」


 まあ、それはいい。

 話を逸らされたが、大体どんなことされているかは分かった。

 特にスキル『送迎車』。

 これもう答えだろ。

 つまり、今の俺はほぼ百パーでタクシー扱いされてるってことだろう。

 で、それを俺にそんなことさせてるのは沙耶だな、これ確定。

 俺って沙耶の道具か何かですか?


「あ! 習くん起きた! そろそろ交代する?」


 ……??

 ……???


 ……交代って言った!?

 コイツ交代とか言ったぞ。

 あーそういうことね。

 沙耶、多分俺にさせたことに悪気なくただ単にやってるわけだ。

 だから交代とかいう頭バカになりそうことを平気に言えるのだろう。

 ……頭バカになりそう。

 繰り返すなって? うっせぇ。

 誰だって頭バカになるだろこんなの!


「よぉし! これでオッケー!」


 何もかも間違っている気がするのは俺だけか?

 ヤバい沙耶の頭がおかしい。

 知ってたけど。流石に冗談だと思ってた。

 まさか、俺が沙耶を乗り物にして移動するなんてな。

 本当に沙耶といると常識ってものが崩れていく音がする。


[スキル『崩壊レベル1』を獲得しました。]


 ……これって沙耶が主人公なのでは?

 前も似たような事考えたことあったけど、物語、特にファンタジーとか、異世界とかの主人公もぶっ飛んでるし。

 まさに沙耶にピッタリ。

 沙耶にピッタリ……はあ。


「どしたの? 溜め息ばっかついてるよ?」


「あれ? 俺、また声に出てた?」


「出てたよ? というかあれ、何だろう……」


 あれ? ……いかにもな奴がいる。

 絶対に関わったら駄目なやつだ。

 RPGでいうならあれだ。

 序盤に裏ボスを倒すくらいには無理ゲーだろう。

 ああいうのは関わらないのが一番だ。

 ……叡智、あれ何?


[ユニークモンスター『アクア・エレメンタル・グランドマスター』です。]


 ……うん。沙耶にはなんとも無いって言っておこう。

 だって下手なこと言ったら調子乗りそうだし。


「……ただのオブジェっぽいよ。だから沙耶、無視しよう」


「そっか! でも取り合えず攻撃する!」


 ん?

 今……なんて? 今、なんて……言った……?

 取り合えず攻撃!?

 信じられない。止めないと……


「おいっ! 取り返しがつかなくなるから! それはや……」


「『氷柱槍アイシクルランス』」


 ……間に合わなかった。

 俺は知らないからな。


[ユニーククエスト『水精殿の騎士長』が発生しました。]


 ……俺まで巻き込まれたし。

 こうなったらヤケだ。


。『聖樹ミストル旋矢テイン』!」


 ……クソ恥ずい。だからやめて欲しかったんだ。

 やっぱり倒せないよな。


 ……これどうすんの?


「なんとなくだけど大丈夫じゃないかなぁ? 取り合えず私もやってみるね! えっとどの魔法にしよっかなぁ……これ使ったことないかも! よしこれにしよーと。行っくよー!

光芒ブリ穿殺槍ューナグ』! 当ったれ〜〜!!」


 今心読まれた!?

 ……ってただの勘か。

 よく考えたらそれも怖い。

 あとそんな実験感覚で魔法使わないでください魔王さん。

 俺、死ぬかもだよ? ちゃんと考えてよ……


[ユニークモンスター『アクア・エレメンタル・グランドマスター』が討伐されました。]

[ユニーククエスト『水精殿の騎士長』を達成しました。]


 ………???

 え……?

 さっきの俺の努力全くの無駄じゃんか。

 もう沙耶一人で良くないか?

 俺いらないよね?

 つまり、俺はただの序盤だけのモブキャラか。

 それならまあ納得。通知は意味分かんないけど。

 ……はあ。誰か俺をこの地獄から解放してくれ……


[ユニークスキル『地獄開門』を獲得しました。]


 ……煽るな。クソっ


[個体名:三倉沙耶並びに個体名:鈴村習に称号及び報酬が贈呈されます。]

[称号『水精の騎士』、『寄生一級冒険者』を獲得しました。]

[ユニークアイテム『水精剣ミストラル』を獲得しました。]


[スキル『鑑定』が発動しました。]


______________


【称号】水精の騎士


 水精の騎士長に認められた者に与えられる称号。

 水属性のスキルを5つ以上もつ者と共闘するとき、敵への与ダメージが千パーセントに上昇する。

 但し、水属性を保有する敵に対しては効果がない。


______________


【称号】寄生一級冒険者


 誰かに寄生して、上位称号を獲得した者に与えられる不名誉な称号。

 味方に任せきりで戦闘をするとき、味方が得られるはずの経験値を全て自分のものにする。


______________



 またネタが増えた。

 俺の称号は滑るだけのネタ帳になってきているに違いない。


 ……はあ。

 最悪だ。俺の頑張りなんてどうともなかったんだな……

 じゃあ最初から沙耶がやれば良かったのに。

 最悪だ。クソっ。


「えっと……多分この先じゃない? 行こーよ! ね?」


 どうやらこのまま終わらないらしい。

 ネームドモンスターとか出てくるんじゃないの?

 本当にもうやめてくれよ……

 通知音でさえストレス半端ないのに……



 ―――本当に現実なんてクソでしかない。



______________


 作者です。

 欲しい方がいれば、瞬殺された可哀想なユニークさんのステータスを書きます。悪しからず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る