第8話 体育の準備運動って、こんなにうるさかったはずないよな。





 体育の授業。

 さっきの数学の授業でおそらく入手しただろう、『叡智』のスキル。

 それほどまでにうるさかったんだ。

 体育なんてうるさい以外の何ものでもない。


 でも俺も疲れてきたらしい。

 何だか統合が多くなって、スキルの入手数が圧倒的に減ったような気がする。

 『通知簡略化』のスキルとやらも進化させてるし。

 俺の妄想もさすがに頭が疲れてくると都合よくなるようだ。

 さすが俺の頭。

 すこぶる自己中心的な構造をしているらしい。

 

 ほら、さっきまでここで流れてたスキル獲得がない。

 やっぱり俺の妄想であることはほぼ確実なようだ。


「鈴村!走れ。もう始まるぞ」


 体育教室の担任がうるさい。

 まあ通知ほどではないけど。


[スキル『疾走』が発動します。]


 うわっ速っ。

 って気のせいか。

 どれだけ俺に都合がいい幻覚を見せたいんだよこの頭は。

 クソ面倒になってきた。


「おいっ! 今のなんだよ。さながら暴走バイクだったぞ」


「知らないって。お前の見間違いだろ」


「それもそうだな!」


 みんなは見ていなかったっぽいし、ただの見間違いだよな。

 こいつ俺を困惑させるようなことを言ってくるとか俺を殺す気かよ。


「とりあえず、グラウンド二周走ってくること」


 本当にこれいらない。

 だって疲れるんだもん。


[スキル……


 あ。疾走はなしで。


[スキル発動を停止しました。]


 流石に妄想をもう一度見るのは嫌だと思い、俺の妄想に語りかけた。

 そうしたら案外あっさり引いてくれた。

 俺の精神を無理に傷つけようとは俺の頭は思っていないらしい。


[スキル『早足レベル1』を獲得しました。][スキル『加速レベル1』を獲得しました。]

[スキル『早足レベル1』を獲得しました。][スキル『加速レベル1』を獲得しました。]

[スキル『早足レベル1』を獲得しました。][スキル『加速レベル1』を獲得しました。]

etc...


 まずうるさ……


[スキル『早足レベル1』を獲得しました。][スキル『加速レベル1』を獲得しました。]

[スキル『早足レベル1』を獲得しました。][スキル『加速レベル1』を獲得しました。]

[スキル『早足レベル1』を獲得しました。][スキル『加速レベル1』を獲得しました。]

etc...


 思考を分断させるなよ!

 ……俺の妄想にどれだけ訴えても無駄だよな。

 この妄想に独自の人格でもあるように思えてきた。

 きっと俺をいじめて笑ってるんだよ。

 主人格をイジメる妄想格ってか。本当にふざけるな。


[スキル『早足レベルMAX』、『加速レベルMAX』に統合しました。]


 うるさいな! もう。


[今日は体力テストで、ハンドボール投げ、それと立ち幅跳び、反復横跳びをする。種目が多いから時間を大切にするように。それでは体育委員前に」


 いつもどこかで口が足りないな、この先生。

 準備体操するくらい言えばいいのに。


「1234……


[スキル『柔軟運動レベル1』、『柔軟レベル1』、『反復運動レベル1』を獲得しました。]

[スキル『柔軟運動レベル1』、『柔軟レベル1』、『反復運動レベル1』を獲得しました。]

[スキル『柔軟運動レベル1』、『柔軟レベル1』、『反復運動レベル1』を獲得しました。]

[スキル『柔軟運動レベル1』、『柔軟レベル1』、『反復運動レベル1』を獲得しました。]


 うるさいわ。これずっと続くのか?


「伸脚ー1234……

[スキル『柔軟運動レベル1』、『柔軟レベル1』、『反復運動レベル1』を獲得しました。]

[スキル『柔軟運動レベル1』、『柔軟レベル1』、『反復運動レベル1』を獲得しました。]

[スキル『柔軟運動レベル1』、『柔軟レベル1』、『反復運動レベル1』を獲得しました。]

[スキル『柔軟運動レベル1』、『柔軟レベル1』、『反復運動レベル1』を獲得しました。]


 ぽいな。うっさいわ。

 聞いてたらもう精神崩壊しそう。無視無視。

 このあともうるさいだろうけど補強運動とかもう地獄だろ。

 以下略。


[スキル『柔軟運動レベルMAX』、『柔軟レベルMAX』、『反復運動レベルMAX』、『跳躍レベル3』、『腕力レベル6』、『脚力レベル6』、『耐久力レベル6』に統合しました。]


 本当にうるさかった。

 もう二度と聞きたくない。

 と言ってもこのあとも散々聞く目になるだろうけど。


[スキル『悲観』が発動します。]


 本当にこのまま続いたら俺はきっと廃人だろうな。

 いやそうに違いない。

 最悪だ。


「何落ち込んだ顔してんだ? 昨日まですごい楽しそうだったじゃんか。あれか? もしかして怠そうな俺格好いいアピールってやつかw」


 構ってくるな、このあとの騒音に耐えきれるメンタルがなくなるだろ。

 生活上迷惑なんて規模を超えてる。

 このまま俺の妄想のご都合主義が勝つか、それとも俺の妄想の通知が勝つか。

 できればこのご都合主義が勝って欲しいものだ。

 本当に切実に。


[スキル『祈祷レベル1』を獲得しました。]


 ……幸先が悪いな。

 






 


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