ひとりおにごっこ編
‘‘かったー’’
チキチキチキ、チキチキチキ
誰も居ない新宿の街に、その音は響く。 ホスト看板が所狭しと掲げられた駐車場の前、車が一台通れるような道路の真ん中。 そこにソレは居た。
「…………っ」
振り返る前まではそこには居なかった。 突如として現れ、鎮座していた。何処にでもありそうなクマの人形。 ただ、その瞳は闇よりもずっと暗い。
チキチキチキ、チキチキチキ
手に持つ大型のカッターは音を立てて刃を出している。 上限など無いかのように。 もう10cm以上は伸びている。
「っ……」
チキチキ、ぎちっ
まるで昆虫の顎が音を立てるような、不協和音でありながら何処か生き物を想像させる音が混じる。
ぎちぎちぎちぎ
殺意とも取れる音を聞き余計に混乱し、彼女は転倒した。もたついている間にゆっくりとクマが近寄る。 何かを喰い破るような音を立てて。
「あ、ああ……」
転んだ痛みも忘れて彼女は少しでも逃げようと這いずる。その背中に追いついたクマは躊躇いなくカッターを突き刺した。
「ぎぃやああああ!」
カッターナイフがぐちゅぐちゅと音を立てて深く突き刺さる。 真っ赤な血が道路を染め、錆びついたような臭いと湿気が立ち込める。
「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして」
突き刺す度に声を上げて彼女は疑問を吐く、そこに答える者も、『どうして』を解決する者もいない。そして言葉が止まる頃には時には誰もいなかった。
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