【カイセカイ】 沖ノ島宇天町ファントムフィクサー結成記

倉村 観

第1話



木雲 善瑶は名のしれた弁護士である父と非常に仲の良い、15歳の賢い少年であった。


2038年 3月10日 水曜日 木雲善瑶は朝7時に、目を覚ますと、すぐにリビングへと向かった。


リビングでは父 木雲 正幸がコーヒーを片手に新聞を読んでいた。

「お父さんおはよう!」と、善瑶が挨拶をした。

「善瑶…今日のニュースを見たかい…?その中に一つ面白い記事があってね。」

「いえ…まだ見てません…ただ…今日は【沖ノ島開発計画】の完成…即ち沖ノ島宇天町の完成の記念式典があるって聞きました。」

「そうだな…。日本では1960年代のポートアイランド以来の人工島開発。 

他国の協力も得て造られた、科学技術の粋をかけて開発されたそれは、完全なる未来都市…【人工の天国】と呼ばれている程にな。 確かに万人が興味を持つニュースだ」


正幸はそういうと、コーヒーを啜った。

「だが…そのニュースではない。実は今日、というか今各メディアで報道されているであろう。とある【珍事件】を担当することになった。」

「?」

正幸はそういうと、テレビをつけた。


「速報です。 沖ノ島開発に協力している民間企業……T.W.H.の社長、邦衛 康成氏とその一家を撲殺した疑いで、男子小学生が逮捕されました。」

「!?」

善瑶はびっくりした。

「撲殺したのか……!?どうしてそんな事に……」

テレビに写ったアナウンサーも善瑶と同様に信じられないと言った表情のまま言葉を続けた。

「ええ……昨夜未明、沖ノ島開発に出資する民間企業……T.W.H.の社長、邦衛 康成氏が何者かに撲殺されるという事件が発生しました。犯人の男子小学生は容疑を認めている模様です。」善瑶がテレビを消そうとすると、正幸は「待て。」と言った。

「ついさっき…事務所長から電話がかかって来た…。尋常ではない巨額を報酬に、私にどうやらこの少年の弁護の以来があったと…。」


「父さん…それはありえないでしょ…だって今逮捕されたんでしょ…起訴するのには時間がいるはず……。」

「ああ……ありえないことだ…。だが、そこだけではない…そもそもこの事件自体も、有り得ないんだ。」

「……」

正幸はこう言った。

「邦衛社長を撲殺したとして捕まったのは……11歳の男子小学生だ…。死因は、顔面の原型が無くなる程の力で

殴られた事による頭蓋骨骨折による脳出血……。だが問題はそこじゃない……」

「どういうことですか……?」

正幸は、一呼吸おいて言った。

「凶器が見つかっていない…。というか、損壊の具合を見るに素手での犯行の可能性が高い」

善瑶は呆然とした。

「凶器は犯人の素手!?そんなバカな!小学生の男子が、大の大人の頭部がグチャグチャになる程の力で殴れる訳がない!」

「だから、この事件自体がおかしいんだ。」

正幸は善瑶の目をまっすぐ見て言った。

「この事件……本当に起こっているかすら、疑わしい。

そもそもの前提が間違っている可能性があるんだ。」

正幸はそういうと、上着を着て外に出て行った。

「父さん!どこへ?」

「仕事の…時間だ…。今実際にその少年は警察にいる。まずは、そいつに会ってみる必要がある。」

正幸はそういうと、足早に玄関に向かった。

「あぁ…善瑶! 今日学校終わったら、事務所に来い……。久しぶりにレストランにでも行こう……。それと…。」

「……?」

「……最近は俺達純粋な日本の血を持つ原住族の数が更に減少し風当たりも更に強くなっている。殺されても捕まらないほどにな。 お前は人に好かれる才能社交性が並外れているから、そこまで心配はしてないが、まぁ、気をつけろよ。」

「わかってる…充分外に出るときは

、自衛策を講じる。」

「その方がいい……。じゃあ行ってくる……。」

正幸が玄関から出ていくのを善瑶は見送った。


「父さん……気をつけて……」


善瑶は父を見送り、リビングに1人取り残された。


善瑶は、朝食を作り、食べ終えた後、学校に向かう支度をし、玄関の扉を開けようとしたその時……

家の電話が鳴った。

「?こんな朝早くに……誰からだろう……?」善瑶は受話器を取った。

「はい……どちら様でしょうか。」

「あの……木雲善瑶さんですか?」

電話の相手は、どこか暗い感じの女性だった。

「そうですが……」善瑶は怪訝そうな顔で答えた。

「実は……その……お願いがあるんです……。」

「お願い?」善瑶は嫌な予感がした。

電話の相手はこう続けた。

「沖ノ島開発……ご存じですよね?」

「はい……確かもうすぐ完成するとかで……。それが何か?」

「実は、その開発会社T.W.H.の社長 邦衛 康成さんからの遺言で…

今日、邦衛 康成さんの私有地の権利を…あなたに譲渡する……と……。」

「…。悪いけど多分…人違いだと思いますよ。ボクはただの中学生だ。」

善瑶は電話の相手の返事も待たずに受話器を切った。

「全く…最近は【戸籍証号】が純日本人でいうだけで悪質なイタズラ電話が多い……。全く迷惑な話だ……」

善瑶はそうぼやくと、学校に行こうと、玄関の扉を開けようとしたその時……

また電話の着信音がなった。

「?……しつこいなぁ……」善瑶はため息を着くと、受話器に向かって手をかざした。


受話器には線がついておらず、善瑶が手をかざすと、ふわふわと浮遊て、善瑶の手もとまで移動した。

「はい……」

善瑶が電話に出ると、電話の相手はこう答えた。

「もしもし……木雲善瑶さんですか?」

「……先程からそうだと言ってるんですけど……人違いです。」

善瑶は、電話の相手の返事も待たずに受話器を切ろうとしたその時……

「あの……私、沖ノ島開発に出資してる会社の者なんですが……木雲 善瑶さん……ですよね?」

「そうですけど……ボクに何か用ですか?またイタズラ電話だったら切りますよ。」

「えっと……すみません……」受話器の相手は、そう謝ると続けてこう言った。

「私、T.W.H.の出資会社の沖野 美月と申します……。その……今日お電話したのは…その……私共の企業が出資している開発事業の遺言執行の件で……。」

「遺言執行?」善瑶は頭に?マークを浮かべた。

「ええ……その……邦衛 康成さんの遺言で開発事業の権利を譲渡するという事で……。」

「あの……」善瑶は戸惑った。。

「その……勘違いじゃないですか?多分人違いですよ……。」善瑶はそう答えたが、相手はこう続けた。

「でも……木雲 善瑶さんですよね……?」


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