魔王のダンジョン色々チャンネル

水城みつは

第1話 Colorless Dungeon

 「Unmemory World Online」通称「アンメモ」は実用、市販レベルでは世界初のフルダイブ方式VRMMOである。

 また、ゲーム内での配信も標準的に実装されているのも特徴の一つである。

 そんな配信者の一人が新たな配信チャンネルの準備をしていた。


「えーと、見た目でバレないようにこのフードを被るわん。これだけ違えば誰もボクだとは気づかないはず」

 ポチポチと設定を進め、普段使用している配信チャンネルとは異なるチャンネルを作成する。


―― 魔王のダンジョン色々チャンネル


「配信開始のアナウンスもいれたし、あとは場所を移動してっと――」


 薄暗いダンジョンの中、赤く光る転移陣だけがやけに目立つ。そこそこ広い部屋の真ん中のようだ。

 部屋の隅にモンスターらしき影は見えるがこちらに気付いた様子はない。

 ダンジョンの壁が背景となるように位置を調整して配信を開始する。


―― ON AIR


「こんばんわ~ん。ぬいぐるみ系VTuber……じゃなかった。吾輩わがはいは、魔王、猫乃王まおーであるわん……にゃ」

 フードを被りなおし威厳のありそうな低めの声で挨拶をした。


❤〚え、まおー? わん太くん、その猫耳フードきゃわわぁ〛

▽[いや、どう見てもわん太……あ、魔王様って呼んだほうがいいのか?]

∪[せっかく、かわいい猫耳フードまで被って、ぷっ、ほら、ちゃんと魔王様って呼んであげようよw]


「ボクはわん太じゃないわん……って、もういいわん」

 どうやらボクの変装はばればれだったようだ。あきらめて猫耳フードを脱いで元々のわんこ姿に戻る。

 開始早々身バレしてしまってはしょうがない、こうなったらいつもの配信スタイルでいこう。


「あらためまして、ぬいぐるみ系VTuber、猫乃わん太わん」

 くるっと回ってポーズをとる。


◎[正体は犬? 猫乃なのに? というかVTuber? アバターなのにVTuber?? え、ぬいぐるみのアバターってあるの?!]

∈[どうやら初見さんが混じっているようにゃ。気にしたら負けにゃ。わん太が猫になるとキャラが被るからやめてにゃ]

◯[キャラ被りは草w けど、確かにアバターなのにVTuberはどうなの?]


「え、あ、確かにアバターで配信はそのままの姿だから……って気にしたら負けわん。そこはそれ、色々あるわん。特に今回は『色々』あるって言っとけば大丈夫って誰かが言ってたわん」

 初見さんだからと言って色々根幹にかかわるツッコミはやめてほしい。そもそも、ボクはボクなのだ。


◆[ところで、そこはどこなの? ダンジョンの中っぽいけど]

◯[そういえば洞窟みたいだけど、妙に薄暗い]

∪[チャンネル名も『魔王のダンジョン色々チャンネル』だったよね]


 そう、この配信はダンジョンの中から行っている。


「よく気がついたわん。ここはボクのダンジョンの中わん」


▽[ん? ボクのダンジョンってわん太のダンジョンなのか?]

∴[それなら魔王というよりダンジョンマスターね]

∈[ダ、ダンジョンマスターなれるのかにゃ?!]


「ふふふ、ここは『Colorless Dungeon』、『Unmemory Dungeon』を改装したんだわん」


◎[『Unmemory Dungeon』って何、初めて聞いたんだけど……]

◆[わん太のいるところにオープンしたベータ仕様のローグ系ダンジョンだけど速攻閉鎖された]

∪[結局こっちには実装されてないよね。予定にも入ってないはず]


 『Unmemory Dungeon』は試験実装されたローグ系ダンジョンである。

 ローグ系の定義は色々あるが、このダンジョンではマップのランダム生成、未鑑定アイテム、満腹度、ランキング等の要素がある。

 もっとも、アンメモでは元々未鑑定アイテムが存在しているし、満腹度も正式サービス開始から導入されている。そのため、システムとしての相性は良いとも言える。


「その閉鎖された『Unmemory Dungeon』の管理権を貰って管理、というか調整して上手くいけば他のダンジョンにも反映したいらしいわん」


◆[つまり、『Unmemory Dungeon』のデバッガーをすることになったと]

◯[え、わん太は色々ダンジョン弄り放題?]

∈[それで、このダンジョンはどんなダンジョンにしたのにゃ?]


「よくぞ聞いてくれたわん。『Colorless Dungeon』、つまり、無色のダンジョンわん。このダンジョンの中はモノクロの世界わん」


∴[それで後ろが薄暗い灰色なのか。わん太がちょっと茶色いだけで他に色がついてないからバグったかと思って色設定を探してた]

∈[目に悪いにゃ]

◆[モノクロダンジョン、いや、グレースケールダンジョンと言ったほうがいいような……。しかし、なんでまたこんなキワモノなダンジョンを作ったんだ?]


「名前はほら、かっこよさげ? 元々の『Unmemory Dungeon』に似せたわん。それに大人メタな事情も色々あるわん。ほら『色々』ね。そんなわけで探索デバッグを開始するわん!」


 前説はこれで終了として転移陣から外に出る――


 ちなみに最初にダンジョンに入ったり階層移動した場合は転移陣から外に出るまでは安全地帯になるようにしている。


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