きみの見ている色

タカナシ トーヤ

第1話 色弱

「小学校のとき、画用紙に絵を描いていたら、川の色が変だ、青や水色を使うんだ、って親に言われて。その時初めて知ったんだ。」


アラタはそう言った。


アラタとハルが暮らし始めて3年目の夏。

何気ない会話の流れからそんな話が出た。



「緑の靴下とって」

「緑?茶色じゃない?」

「緑でしょ」


思えばそんなことは、何回かあった。

だが、家の中は、家具も服も雑貨もほとんど黒っぽいもので埋め尽くされており、3足セットの間に合わせで買ったその靴下も、ハルにとっては、濃い茶色だったが、アラタにとっては濃い緑に見えたのだろう。

ハルにとっては黒っぽければ、緑でも茶色でも問題はなかった。


だから、アラタが色弱だということを、ハルはその日初めて知って驚いた。


そういえば、よく、焼け切れていない肉を皿に乗せられた。

だが、アラタはミディアムレアが好きな人だったから、その方がおいしいと思ってそうしているのだと思っていた。


サラダも、刺身の盛り合わせも、アラタが作るものはいつも彩り鮮やかで、綺麗だった。

黒い家の中で、色の違いが話題になるのは、微妙な色の差の靴下を取る時くらいだった。

見えている色が違うなんて、思いもしなかった。


アラタのほうも、敢えて伝える話でもないと思っていたのか、なんとなく伝えずらいと思っていたのか、堰を切ったように色々と話し始めた。


「埼玉のおじさんも、色弱なんだ。遺伝率が高いんだって。」

「小さい頃、パイロットになりたかったんだ。でも、色弱だとパイロットになるのは難しいらしくて。」

戦闘機マニアなアラタは、日頃からプラモデルを作ったり、航空祭の動画を流しては食い入るように見ていた。



「え、じゃあ今見えている色も、私とアラタは全然違うってこと?」


互いの見え方の違いを検索して、ハルは驚いた。

ハルの見ている色と、アラタの見ている色は全く異なるものだった。


「えっ、アラタにはお刺身はこんな風に見えているんだね。」

ハルに見えているお刺身の画像は、普段見ている色よりもとても黄緑がかって見えた。


—こんな風に—といったところで、見えている色が違うのだから、伝わらないわけだが、ハルはそう言わずにはいられなかった。


そしてさらに驚いたことは、アラタには見えて、自分には見えない世界があるということだった。


ハルには螺旋が描かれているようにしか見えない丸い点の集合体の中に、アラタは文字を見つけ出す。


「24って書いてある」

「なんにも見えないよ」


「ただの丸にみえる」

「8って書いてある」


2人は色覚テストを通じたそのやりとりが楽しくなり、夜更かしして見え方の違いを楽しんだ。



「俺にとっては、俺に見えているものが全てだから、がどう見えるのかはわからない。」



そう言ったアラタの言葉がハルの心に刺さった。


 


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