2話 悪魔が宿っている少女
ゲームの設定上、帝国は皇帝の不老不死のために様々な研究を積み重ねている国だ。
そして、その研究の中の一つが人体実験―――すなわち、行き場のない孤児たちを収容所に閉じ込めて、様々な薬物や魔力を試すことである。
どうやら俺は、その孤児の中の一人に転生されてしまったらしい。
「おい、さっさと動け!!飯が食いたくねぇのか!」
「けほっ……!?ご、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「ったく、きったねーやつらがよ……!」
かれこれ3日くらい経って、俺はこの収容所―――および、帝国に対して一種の確信を得るようになった。
こんな国なんか、絶対に滅んだ方がいい。
どう考えてもまともじゃない。週5で働くのもきついのに週7で働くとか、地獄だろこの国。
もちろん、理由は労働に関することだけじゃなかった。この収容所の中にはあまりにも……あまりにも、残酷すぎることが多々起きるのだ。
まだ手足が動いている子供たちは、全員坑道に送られて失神するまで鉱石を掘らなければいけなくて。
そして、その中で力尽きて倒れてしまった子たちは―――男たちの慰み者にされるか、次の人体実験の対象になるかのどちらかなのだ。
狂っているという言葉しか浮かばない。実際にその光景を目の当たりにすると、反吐が出そうになった。実際、何度か吐いた。
でも、俺はある程度正気を保っていられる理由は―――目の前の、ホログラムみたいに浮かんでいる画面のおかげだった。
「ステータスバー………」
まさか、ゲームの中でしか見たことがなかった能力値を、現実で見られるようになるなんて。
鉱石を掘る仕草をしながら、俺はステータス表に並べられているスキルを確認していく。
【覇王の格】 - Cランク
魂に覇王の品格が宿る。すべての精神攻撃と状態異常を無効化。
【境界に立つ者】 - Cランク
すべての魔力の境界に立つ。あらゆる魔法を吸い取り、放つことができる。
【浄化】 ー Dランク
汚されているものを浄化することができる。
【浄化】スキルはまだいい。これは、全キャラ共通のスキルだから。
でも、【覇王の格】と【境界に立つ者】……?こんなスキル、ゲームにあったっけ?
いや、なかった気がする。ていうか、ここまでぶっ壊れたスキルを俺が知らないはずがない。あのゲームは俺の人生だったから!
だけど、目の前の画面には間違いなく、俺が知らない二つのスキルが存在していた。
固有スキル、という枠に括られているまま。
『固有スキル……?なんで?俺、まだレベル200にもなってないのに?200になってクエストもクリアしなきゃ、得られるはずがないのに!?』
でも、まあいいじゃないか……!この地獄から脱出するためなら使わない道はない。
それに、スキルの説明通りというべきか、俺の体に不思議なエネルギーが漲っている感覚が確かにあった。たぶん、これがいわゆる魔力という奴だろう。
俺はもう一度、息をするのも苦しい坑道の中を見渡す。憔悴した子たちが力なくつるはしを振るっていた。
この坑道で食事として与えられるのは、おがくずが入っているパンと汚染された水だけ。それに空気質も最悪だから、子供たちが耐えられるはずもなかった。
ここに来て三日しか経ってないけど、すぐに5人くらいの子供たちが倒れて収容所へと送られた。
やっぱり、これは……おかしい。
『幸い、俺はまだなんとか耐えてるけど……やっぱクソみたいな国だな、帝国……!!』
とりあえず、なんとしてでもスキルを利用して、ここから脱出しないと。
つるはしを振るっている一方、俺は頭の中でずっと策を巡らせ始めていた。しかし、その時―――
「さっさと動けっつってんだよ!!この間抜けが!」
「っ!?っ、ぁ………」
「お……おいおい!あいつには構うなって!」
「ああん!?どういうことだよ?」
「あいつ、悪魔の子供なんだぞ!?」
視界の端に、倒れている黒髪の女の子と監視役の男が映る。
そして、その男を落ち着かせようと、他のヤツが走ってきた。
「はあ?悪魔の子供?なんだそりゃ」
「バカ、こいつの体には悪魔が宿ってるんだぞ!?変に興奮させたらこの坑道ごと持っていかれるって!」
「はっ!!くっだらねースラム街の孤児に、悪魔が宿っている?俺にそれを信じろと?」
「信じられないなら、魔法視野であいつの魔力を見てみろ!!それじゃ話が分かるはずだからな!」
「つっ、めんどくせーな……どれどれ……」
そして、次の瞬間。
「ひっ!?う、うあああっ!?!?」
魔力視野を発動したらしいその男は、驚くあまりその場でぱたんと倒れてしまった。
顔に滲んでいるのは、明らかな恐怖。彼はパンドラの箱を開いたみたいに体をぶるぶる震わせて、少女を指さしている。
「お、お前……な、なんだ……!」
「…………………」
感情でも殺されたのか、少女は無表情のまま立ち上がって、さっきと同じくつるはしを振るっていく。
監視役の男はなんとか立ち上がって、ささっとその少女から離れた。
だけど、少女から離れているのはその男だけじゃない。この場にいる全員、子供を含めた全員が約束でもしたかのように、少女を遠ざけていた。
『悪魔の子供?これ、どっかで聞いたような……』
そう思いながらも、俺は男たちの目に映らないよう静かに移動してから―――その少女に近づいた。
「……え?」
「し―――っ」
さすがにバレたら困る。幸い、さっきの男たちは遠く離れているせいでこっちを見る気配はなかった。
俺は、人差し指を唇に当てた後に懐から小さな瓶を取り出す。
「これっ、て」
「これ飲んで。この三日間ほとんどなにも食べなかったでしょ?喉も乾いているだろうし、ほら」
「……ここの水は汚染されている。飲んでも毒にしかならない」
「あ~~えっとね」
神聖系魔法の【浄化】を使って、汚染された水を清めただけ……と説明したいところだけど。
でも、それを知られたらさらに厄介なことになりそうで、俺は適当に誤魔化す。
「ごめん。理由は説明できないけどこの水はすっごくきれいだから、安心してもいいよ?ほら、実際に色も透明でしょ?」
「……どうして?」
「うん?」
「どうして、私に?私には、悪魔が宿っているのに?」
「でも、君は人間でしょ?」
もちろん、俺だって彼女の中の悪魔が見える。なにせ、俺が転生したこの体には魔力が巡っていて―――常に、魔力視野が発動されていたから。
悪霊を具現化したような黒い物体。確かな目と口があって、ヤツはまるで皮肉るみたいに今も俺に向かって笑っている。
だけど、この少女にはなんの問題もないように見えた。それはこの三日間観察した結果であり、むしろ……この少女は、人一倍に優しいようにさえ見える。
食事として与えられるパンと水を、他の子たちに全部譲ったくらいだから。
「君は人間だよ。悪魔じゃない」
「………………………」
「うあっ、監視役が来る……!これ全部飲んでいいから、バレないようにね!?」
「あ、ちょっと……」
見張り人に疑われないように、俺は彼女から離れて熱心に作業をするふりをした。
でも、その女の子の目は相変わらず俺に刺さっていて。
「……………………なん、で?」
そして、これが俺の初めての仲間との出会いだった。
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