色褪せた世界で~黄のクオリア~

新名 在理可/新名空猫/*ソラ*(^・×

第1話【KAC20247】「色褪せた世界で~黄のクオリア~」

 世界はあれから色を失ってしまった。


 何かの比喩ひゆではなく、文字通りに色が消えてしまい、といっても無色透明ではなく、白と黒とその間の各段階の灰色はいいろのみの、モノクロームの世界になってしまった。


 え? 俺様の着てるシャツはあざやかな黄色で、ズボンはグレーだけど、よく見ればショルダーバッグやサンダルのベージュ色や俺様の肌の色があるじゃないか、って?

 そう、俺様自身と自分が身につけていた物だけが、なぜか色彩しきさいを失わずにたもっている。


 まぁ、俺様は元々生まれつき白髪で(黒髪……実際には日本人の自然な黒髪はげ茶色ベースだが……だったとしても、ほぼモノクロ属性で)、瞳や肌の色素も薄いし、ベージュ色も落ち着きのある色で使い勝手がいい色ではあるが、心踊こころおどるような楽しくなる気分の色とは言えない。


 なので、この黄色いシャツがこの世界で唯一の色彩、と言ってもいいかもしれない。


 ……黄色が好きじゃないとか似合わない、だったら地獄のような苦痛を味わうとまでは言わないが、こんなに明るい色でも憂鬱ゆううつな気分だっただろうが。

 さいわい、ユニホームとかで強制でなく自分で選んで着ていた服だから、そんなことにはならなかったな。

 洗濯する必要のために、色を失った他の服も着ているが、そのうちボロボロになって着られなくなる前に、観賞かんしょう用で保存か?


 というか、だ。身につけたりするものはまだ色が無くてもいいんだ。白黒コーデを好む人だっているし。

 ただ、食べ物が……色味いろみがないと美味おいしそうに見えないし、味があってもそれがあまり感じられない。


 元の色があった頃の状態を想像するにも、その色がどんなであったか? を思い出せなくなってきている。

 そのうちに、思い出す色は、今一番身近な、唯一ゆいいつの色らしい色と言える、このシャツの黄色にすべて置き換えられてしまっているかもしれないな。


──

──


「はーい、カット~!」


 スタジオにディレクターの声が響き渡る。


「いや~、良かったよ。思考実験ドラマ『色彩しきさいのクオリア』の黄色編の撮影はこれでOKだよ」


「そうか、それは俺様としてもよかった」


「その『俺様』ってのは普段から言ってるんだね。キャラ作りってやつ?」


「はぁ、別にそういうわけじゃないが。元々は、1年前くらいまでは『俺』だったし。

 ただ、ある時から『俺様』と言うようになってて。その方が自分らしいというか……今さら『俺』に戻したら『誰?』呼ばわりされそうな気がして、そのままにしているな」


「なんだか、この思考実験ドラマの話にも通じるような話だねぇ。

 ……うん、役者に素人しろうとさんをスカウトして抜擢ばってきする今回のこころみは、当たりだったな。ドラマの評価云々うんぬんは放送してみないとだが。君みたいなキャラの人間と仕事ができて楽しかったよ」


「そうですか」


(本当に楽しかったのか? まぁ、お世辞せじだろうが……)


「では、撮影が終わったなら俺様はこれで……」


「あ、その衣装は、そのまま着て帰っちゃダメだけど。記念でプレゼントするよ! もちろん契約通りに出演料は後日ごじつ振り込ませてもらうから!」


     『色せた世界で~のクオリア~』END


 ※※これはフィクションです※※


 この劇中劇の思考実験ドラマ『色彩のクオリア』は、ソラ男(=この『色褪せた世界で~黄のクオリア~』の主人公であり、別作品の主人公でもある青年の通称)以外にも、「赤のクオリア」「青のクオリア」……と色ごとにイメージの合う素人さんをスカウトして演じてもらう形で製作されたようです。


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