何もない、此処はどこだろう。


比喩ではないのだ、本当に何もないのだ。


チューブからそのまま出したような真っ新な無機質な白。


扉もない、窓もない、なんなら地平線が見える。


ここに終わりはあるのだろうか、途方もない距離歩かなければ行けないのだろうか。


その瞬間画面が切り替わる。


墨汁で荒々しく描いたような歯車、規則的に動いている。


ここで不思議なことに気付いた。


音がないのだ、何も聞こえない。


また画面が切り替わる。


線香が一本立っている、火は付いていない。


線香の足元には灰が少しだが山を作っており、線香が刺さっている状態に見える。


だが、なんせ真っ白な部屋に線香一つ、なんだか物悲しい。


また画面が切り替わる、歯車だ。


ギャリギャリという音が聞こえて来る気がする。


何かがすり潰されている、嫌な予感がする。


近づく、何か引っかかっている。


原型を微かにとどめているそれはなぜこうなっているのかも相まって一瞬何なのか判らなかった。


腕だった。


手は親指から中指まで千切れており、薬指は第二関節で無くなり、小指は皮一枚で繋がっている状態だった。


肘近くで腕部分は千切れており美術的なオブジェだよと言われればそう思える。


確かに美しかった。限りなくグロテスクになったそれは興奮を覚えるほどに。


美しいと共に微かに不気味さを感じた。


違和感を探すとオブジェに見える理由も分かった。


千切れているのに出血した跡が見当たらないのだ、もちろん流れてすらいない。


その癖温かいのだ、まるで今さっきまで生きていたように。


どうなっているのか観察して気がついたら画面が切り替わっていた。


線香だ、さっき見た線香だろうか。


先程の線香と全く同じだが違う点が一つだけあった。


火が付いている。


誰が火をつけたのだろうか、もしかすると私以外にもここに人がいるのだろうか。


誰かいるのかとホッとした瞬間言いようのない恐怖に襲われた。


誰かいる。


その瞬間目が覚めた。


私がこの夢を見て十年ほど経つのだろうか。


その間に夢は数え切れないほど見たが、この夢はいつまで経っても忘れられない。


多分死ぬまで忘れられないのだろうなと。

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