私は臭いからイジメられる。

地極ミミ

私は臭いからイジメられる

あいつ匂いやばいよな


良い匂いでやってるつもりなのかね。

ーやってないよ。


メスって発情すると匂い強くなるんだっけ

ーこれ柔軟剤だよ


まじ教室中が香水臭いわ

ーごめんって


ちょっと早く誰か言えよ

ー聞いてよ。ちゃんと理由話すから




私は臭い




理由は簡単。家で馬鹿みたいに柔軟剤を使っているから。


母さんが



 母さんは、一度脳卒中で倒れてから味覚と嗅覚が著しく低下した。


 でも母さんは、そのことを病気を受け入れることができていない。



 自分で言うのもなんだけど思春期の近い子供には結構キツい。


 入院して以来母さんが作る料理は不味くなった。母さんが味を感じるまで調味料を入れるから。


 母さんとの食事はいつからか苦行になった。塩の塊を「美味しい」「もっと食べたい」と言わなきゃいけない。


 もちろん自分から料理とか洗濯をしたいと言った時はあったよ。いつだったかなぁ。あぁそうだ半年前。クリスマスの前日だ。


 その日の食卓は母さんも私もどこか機嫌が良かった。それで、ついうっかり言っちゃったんだ。


「あのさぁお母さん、これからは私が洗濯やろうかな…」


「え、どうして?」


「いやぁお母さんが入院してから自分も家事できるようになりたいなぁと思って」


「良いのよ。あんたはまだ高校生なんだから、お母さんに」


「でも」


「でもじゃない!!!また、あなたお母さんの嗅覚落ちたって言いたいわけ!?」 


 そう激昂して、母さんはテーブルを叩いて洗濯物が干してある隣の部屋に行った。


 そして干してあるTシャツを顔に当てて何度も匂いを嗅いだ。「私は大丈夫。匂いする。うん。匂いする。私は大丈夫」と何度も言った。


「そうだねお母さん」

あれだけ柔軟剤いれてたら匂いするよ。


 母さんは大丈夫でも、私はいじめられているんだよ。まぁそんなこと母さんに言えるわけないよね。そんなこと言ったら病気の前に母さん自殺しちゃうよ。


  あーあ母さんが死んだら臭いっていじめられなくなるのにな。自分で洗濯して、なんなら母親死んだ可哀想って理由で友達できたりして…。


やだ、、そうやって考える自分が大嫌い。


 私はそんな変わらない地獄の日々を過ごしていた。アイツがこの学校に来るまでは。


ーーーーーーーーーーーーーー



「東京の学校から転校してきた久保ヒカルです。皆さん宜しくお願いしまーす」


 6月、クラス替えから落ち着いたこの時期に転校生が来た。それも背が高くてイケメン。人当たりも良さそうだ。


いや、いや、それどころじゃない。


やばい。このままだと。


「席は空いてるところに」と担任が言った。


やばい。やばい。


今、この教室で空いている席は…


私の…後ろだ。




「可哀想に」


「1番臭いところに当たったじゃん」 


「え〜先生も気づけよ馬鹿じゃないの」 


 クラスの人達が私に聞こえるか聞こえないかのギリギリの声で話す。


 一度「コイツは何を言ってもいい奴だ」の烙印を押されると、本当に好き勝手言われる。教室ってそんなもんだ。


 そして「久保くんどんまい!」と久保が通った席に座っていた男子が大きな声で言った。


 その言葉を聞いて周りからドっと笑いが起こった。


 まだこの転校生、久保は何故クラスに笑いが起きたか分かっていないようだ。


「ん、何が?」と爽やかな笑顔で言った。


あぁ、もうすぐ

この転校生久保も気づく。

 

私の匂いに。クラスの私の立ち位置に。


 ごめんね。臭くて申し訳ないって気持ちはあるんだよ。でも良かったんじゃない。「前の席臭いよね」で、きっとクラスの皆とお友達になれるよ。


人の悪口って絆を深めるからね


そんなことを頬杖つきながら考えていた。

いつものように、どこにも視線を合わせずに。


「ねぇ」 


「……」


「ねぇ、ねぇ」


「……」


「ねえってば!」


「え…」


 目の前には転校生、久保ヒカルがいた。私に話しかけたの?


「はい…なんでしょうか。」


 私は改めて久保ヒカルの顔を見た。焦げ茶の髪がサラサラと靡いている。二重の幅がとても綺麗。横顔もしっかりとEラインがある。世にいう美少年だ。


 何で話しかけてきたの。


「君、柔軟剤リノア?」


「え、あ、うん。そう」 


「だよねぇ。俺も昔使ってた。最近高くなったから安いのに変えたけど」


「そう。あぁうん。ごめん」


「良い匂い?」


 初めて匂いのこと聞かれた。というか、ちゃんと人と話した。


「慣れすぎて、もう分かんないや」


「結構量入れてるんだね」


「うん」 


「どうして?」


 久保は真っ直ぐに私の目を見て聞いた。この言葉に悪意は全く感じなかった。だからこそ胸が痛い。


 あぁ。この人すごく良い人だ。私が傷つかないように真剣に言葉選びながら聞こうとしてる。


「お…お母さん」


「お母さんが入れてるの?」


「うん」

私は続けた。


「脳の病気になって嗅覚がものすごく落ちちゃって、それを受け入れたくないみたいで、自分が匂い分かるまで…」


と言いかけて涙が溢れた。そんな自分に困惑した。涙を流すのなんていつ以来だろう。


「なんで」と思わず言ってしまった。久保が匂いのことを聞いてきたことにじゃない。涙を流した自分にだ。


「あ、ごめん。傷つけるつもりで言ったんじゃ」と久保はあたふたした。そして「保健室いこ」と私の手を引っ張って教室から飛び出した。


 この時のクラスは久保を歓迎する空気から、異物を見る目に変化してた。どんなに辛くても私はこういう視線には敏感だ。


 と言っても転校生の久保は保健室の場所を知らない。私が泣きながら案内した。


「そっか、そっか。今まで誰にも言わないでよく耐えたね」

と事情を一通り保健室の先生に話した後、頭を撫でられながら言われた。


 初めて人に喋って自分の現状を言語化したら一気に感情が止まらなかった。いつも心の中で繰り返し言ってるのに。


「どうしようね。学校からお母さんに連絡することもできるけど」

と保健の先生はうーんといかにも困ったポーズをしながら言った。


母さんにこのことを…


「それだけはしないでください。そしたらお母さん絶対に悲しむ。母子家庭だから。私が成人するまで絶対に死ねないって、だから自分の病気を自覚したら、」


あぁダメ。また泣きそう。


「んー保健室って替えのYシャツと制服ってありますよね。」と保健室の周りをキョロキョロと見渡しながら久保は言った。



「….できるよ。そうだね。そうしよっか!」と保健室の先生も嬉しそうに言った。相変わらず大袈裟なジェスチャーで。


 久保は私の座るベッドの向えのベッドに座った。私は改めて正面から久保を見た。それは神々しい、何かに見えた。同じ高校生とは思えなかった。


「まぁ身体にも匂いはつくから、完全には改善できないけど。村山さんが、ちゃんと話してくれたおかげだよ!良かったね」と久保は満面の笑みで言った。


 私はその満面の笑みに釣られて、口角が上がった。久しぶりの笑顔は頬がつりそうだった。





それから私は、学校に着くと保健室に行って学校の制服を着てから教室に入るようになった。



そして私の学校生活には3つの変化が起きた。



一つ目は、私は周りで「臭い人」から「臭かった人」になった。


 すれ違うたびに小言を言われなくなるってとても快適だ。


 そして教室では臭い私から、パパ活してるあの子にいじめのターゲットが変わったみたいだ。


 そして二つ目は、久保と友達になったこと。


 久保はイケメンで人当たりの良い性格なのに他の人とつるまない。


 部活にも入らない。移動教室も私と。帰りも駅まで一緒。


 久保がどうして他の人とつるまないのかは良く分からなかったし、どうして私に気をかけてくれるのか分からなかった。


 クラスの子に話しかけられたら、それとなく話しているけど深く仲良くなろうとする様子は無かった。


 私は何故かそんな久保に安心した。



 ある日の10分休憩、私は「いいね噂話とか悪口を言う側は」とポツリと言った。


「ん、」と久保はパンを食べながら返事をした。久保は10分休みには必ずパンを1個食べる。そして昼休みにはしっかり母親の弁当を食べている。


10分休み。席が前後の久保と私はよく話すようになった。


「安心した場所から石を投げるのは、さぞかし楽しいんだろうな」と私は頬杖をつきながら言った。


「いつまで安全かは限らないけどね」と久保はパンを口に詰め込んで言った。いくらなんでも口に入れすぎでは。


「ねぇ久保、私アイツら殺したい。」と教室で馬鹿騒ぎをする男女に向かって言った。そう、私の陰口をずっと言ってきたやつだ。


「きっと私は高校卒業しても大学に入っても社会人になっても、私の陰口叩いていたことの奴らは忘れずに妬み続けるよ。毎日死ねって祈ってる。そいつらから子供が生まれた日にはその子供殺しちゃうと思う」


本当に殺意とか妬みとかって突然に湧き出てくる。それが10分しかない移動教室をするための時間でも。


「それは辞めなよ….いつかアイツらもバチが当たるよ」


「私がバチを当てたいんだよ」


「でもー」


「久保は、あっち側の肩を持つの?」

“でも”の一言に思わず噛みついてしまった。久保は何も悪くない。むしろ私を救ってくれたのに。何で久保にそんなことを。私はすぐに後悔して、謝ろうとした。


「ごめん、今のは…」


久保は困ったように少し笑ってから


「違う….分かった。良いよ殺そう。俺の心の準備ができたら」と言った。


「な、何言ってるの久保。今のは冗談だよ」


久保はパンを食べるのをやめて、先に教室を移動した。


最後に久保と出会って私に起きた3つ目の変化は、教室が全てじゃないと知れたことだ。


 ある日の帰り道、久保から「ボランティアに行かない?」と勧誘された。


「えぇ良いけど。なんで?」 


「ボランティアする人って心と時間に余裕のある人しかいないから」 


 久保の言葉の意味はよく分からなかったけど、放課後にも久保と会えるなら別に良いと思って二つ返事でOKした。


 久保から誘われるボランティアはとても良かった。


 マラソン大会で紙コップに水を入れる仕事。ビーチでゴミ拾い。盲導犬イベントの会場スタッフ。養護施設の子供と音楽会。


 久保の言った通りボランティアをする人は心と時間に余裕のある人ばかりだ。


私の柔軟剤の匂い指摘する人は誰もいなかった。


もちろん、たまにボランティアをしていて、面倒臭い人や偽善チックな考えで合わない人もいた。そういう時はさっさとボランティアを切り上げて、久保と公園でアイスを食べに行った。



そう。一歩足を踏み出せば、色々な世界があって、面倒臭いと思ったらすぐ逃げて他に行けばいいと分かった。


久保と一緒に。


 私は久保のことがどんどん知りたいと思った。何を考えているのか。今まで何があったのか。久保が私に与えてくれた分、私も久保に何か与えたいと思った。


「なぁ久保。なんでお前、転校したの?」


ビーチのゴミ拾いが終わった帰り、砂浜に体育座りになって海を眺めた。その時にふと思って聞いてしまったのだ。


 こういうセンチメンタルな場所でこそ聞けることがあるんだなと質問してみて思った。


 久保が転校したのは6月。このタイミングの引っ越しは深い事情があることが多い。


「ん、んーと。実はクラスが上手くいかなくて」


「いじめ…?」


「まぁ。そんな感じだよ。周りに流されて、自業自得。気づいたら全ての人から裏切られた」


久保は夕日に向かって目を細めながら言った。


「ごめん。こんなこと聞いて」


「いいんだよ。こうやって今一緒にいれることが幸せだから」 


「さぁ行こうか」と久保は立ち上がってお尻についた砂をほろった。そして、私に手を差し伸ばした。


私は久保の手を掴んだ。大きくて暖かかった。



あぁーダメだ。


私、久保のことが好きだ。

いや久保に恋するのは当たり前だ。


臭いという呪縛から私を解き放って、ずっと一緒にいてくれた。


でも分かってる。この恋はダメなんだって。


私は一方的に久保に与えてもらっているだけだ。

そんな私が久保を好きになっちゃダメだって。


久保を困らせたくないんだ。


 夕日で顔の火照りは誤魔化せているだろうか。私は久保の後ろを静かについて行った。


 ずっとこの時間が続けば良いのにと願った。



 でも、現実は泣きたくなるほど厳しい。


 しかも、それは突然奪われる。


 ある日の帰り道。夏は終わりかけで、久保と今季最後のアイスだねとコンビニに向かった。


 橋下の川からの太陽の照り返しに思わず目を抑えようとした時


「やっと見つけた久保」という声が橋の先から聞こえた。


 しかし逆光でその声の主の形を捉えることが出来なかった。


隣の久保から「あ、あぁ」という声が聞こえた。その声はひどく動揺し震えていた。


私は「誰?」と聞いた。


「ま、前に同じ高校だった…」


「前の学校の人?」と言って私はようやく、その人物の顔を見ることができた。


 スウェットを着て髪がボサボサの少女だった。


 その少女の身なりは炎天下に長袖だった。そして疑問に思ったのも束の間、私は全身から冷や汗が吹き出た。


 少女の右手には牛刀のような、大きな包丁が握られていたのだ。


「楽しそうだね。新しい学校。自分は逃げて何楽しく生きてるんだよ」と少女は言った。


少女の目は血走っていた。あ、ぶっ飛んでる人の目。母さんと同じ目だ。


隣の久保は顔面が真っ青で、冷や汗をダラダラと流し過呼吸になりかけていた。


私はそんな久保の背中をさすった。


「その子には言ったの?前の学校でいじめが問題になって退学したって」


久保は「横田さん」と小声で言った。この少女の名前は横田さんというそうだ。


てか、それよりも


「いじめって、久保がいじめ…られていたんだよね?」


「はぁ!?アンタ何言ってるの!?」と横田さんは腹を抱えて大笑いしながら言った。


違うの?。イジメってまさか。私は怖くて久保の顔を見ることが出来なくなった。



「く、久保?違うよね?否定しないの?」


久保は俯いて黙り込んだ。


「聞けよ!コイツはね!女子の顔に点数つけて馬鹿にして笑ってたんだよ!」


「え…」


「お前のせいで私は学校行けなくなって!鏡何回も見て泣き叫んで!親泣かせて!」


胸が張り裂けそうになった。みぞおちが熱い。横田さんのイジメが自分のいじめの記憶と重なる。


「なんでお前はのうのう生きてんだよ!しかも私と似た顔選んで、罪滅ぼししてんのキモいにも程があるだろ!」


「久保、そうなの?」


「…..」

ーーーーーーーーーーーーー

「はーい、うちのクラスの女子の顔面偏差値は3です!」


「いや俺ら可哀想すぎるだろ。8組が羨ましいよ。」


「ちょっと3とか酷すぎでしょ。やめてよ〜」


「大丈夫。みのりちゃんは51だから。」


「じゃあ誰がこんなに数値低くしてるの」


「おい久保、誰だか言ってやれよ」


「んー横田さんでしょ笑」


ギャハハはははは!!!!


ーーーーーーーーーーーーー


「そうだよ。それで退学になった。隠しててごめんねぇ」と久保は私の手を払いのけ見下すような目でこちらを見た。


あ、こいつもクズだったんだ。安心した立ち位置で石を投げるやつだったんだ。


女の顔面勝手に評価して何様だよ。コイツ。


「新しい環境で、やり直そうと思った。今度は陥れる側じゃなくて救う側にって。無理だねぇ。下手に声かけないで慎ましく生きれば良かった」


「な、なにそれ?」


それって。


「ほら刺しなよ横田さん。」と言って久保は手を広げた。その手はブルブルと震えていた。


横田さんは包丁を両手で握った。でも、その手は久保と同じくブルブル震えていた。

「はぁ、はぁ…お母さん、ごめんなさいごめんない。はぁはぁ…」


「お母さん…」と私は横田さんにつられて言った。


震えてる…凄いよ貴方。行動に移せて。わざわざ東京から北海道まで来たんでしょ。久保のいる高校も特定してさ。高校生で凄いよ。私は自分の悪口言う奴殺す殺すって口だけ言って動けなかったもん。


凄いよ。横田さん。私もいつか貴方と同じ道を歩んでいたかもしれない。



「それをね救ってくれたのが、この男なんだ」


「なに?」と久保は冷たい声で私に言った。今まで聴いたことない久保の声だった。


 これが久保の本性でも構わない。私と久保の日々に嘘はないから。


 久保は私をじっと見て「お前も馬鹿な女だよな」と言ってニヤリと笑った。


 それを聞いた横田さんが覚悟を決めたのか「うわぁぁぁあ!!」と言って飛びかかってきた。


 私は背負っていたリュックを前に持ってきて横田さんにタックルした。


 リュックは突き抜けて、私のカーディガン、ワイシャツ、キャミソールを貫いて私のお腹を掠めた。お腹が少し熱くなったけど、ほぼかすり傷だ。


リュックに押され、横田さんは吹き飛んだ。


「私、同じいじめられっ子としてあなたには人殺しになって欲しくない。だって…私もお母さんが大好きだから」

こんな状況で笑っている自分がとても怖かった。


 横田さんの目には涙が浮かんでいた。

私がいじめられっ子という言葉を信じてくれたようだ。


 それでも横田さんの意思は強かった。気を取り直して、包丁を再び握りこちらに向かってきた。


もうリュックは使えない。


「久保…ありがとう。」


「は、はぁ?」


「それでも久保は私の光だ」


 今度は久保にタックルした。帰宅部のくせになんで1日に2回もタックルしなきゃいけないんだ。


今度はありったけの力で、めいいっぱい久保を押した。


そして私と久保は橋から川に向かって勢いよく落ちた。


久保は私の光だ。この言葉に嘘偽りない。



光、光、光、


どこからか久保の言葉が聞こえてくる。


走馬灯かな…?


「村山さんがちゃんと話してくれたお陰だよ!」


「まぁ学校が全てじゃないから」


「ねぇ、君の家の柔軟剤はー」


夏の終わりの川は、水面は暖かくて水中はひんやり冷たい。もう秋になる。


私は秋の川に意識を委ねた。


ーーーーーーーーーーーーー


●エピローグ


「ねぇニュース見たぁ?」


「見たみた!村山さん刺されたんでしょ?」


「そう久保の代わりに庇ったって」


「あの子も馬鹿だよねぇ」


「てか、女の子も凄いよね。当時いじめてた男の名前ネットに晒してから刺しに行ったんだよ。」


「凄い根性。私、ヨウツベに上がってる、彼女のいじめの話と犯行予告の動画見て泣いちゃったよ。」


「マジ久保さぁ。自分の顔がいいからって他人の顔評価してたのマジで死ねって感じ。そうだ久保の写真、週刊誌とかに売ろうよ!」


「いいね!最高!!」


ーーーーーーーーーーーーーーー


「ヒカル…お母さん学校に行ってくるから。」


「うん」


「頭の傷は…?」


「来週には包帯外していいって」


 俺は額を抑えながら言った。あの日からスマホを使うこともテレビを見ることも禁止された。


 でも母さん以外の人と話していたら、俺の悪事が世間にどう広がったから察しがつく。俺の人生はもう終わった。


「ヒカル…どんな時でも母さんはあんたの味方だから。あ、今日はハンバーグにしよ」と言って母さんは俺のことを強く抱きしめた。


 もう俺には感情が残っていなかった。涙が一滴も出なかった。 


 母さんが玄関から出てって15分経った。

 俺は玄関の鍵の施錠を確認しチェーンをかけた。


 よし、死のう。


  

 俺は制服のベルトを取り出し首に括った。


 その時、ピンポーンとインターホンが鳴った。


 ピンポーン、ピンポーン。


 母さん?いやそれなら鍵を開ける。誰だ?


 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン


 インターホンは鳴り続けた。


 その時、鼻腔がツンと震えた。


 「あっ…この匂い…」


 俺は震える足取りで玄関に向かい、覗き穴で外を覗いた。


 瞬間、俺は足から力が抜け尻餅をついた。そして涙が何粒も何粒も滝のように溢れた。


「やめてよ」


「なにしてんだよ」


「俺なんかに、光はあっちゃいけないんだよ」


 覗き穴から見える小さな小さな光に、俺はうっすらと照らされた。

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私は臭いからイジメられる。 地極ミミ @chikyokumimimi

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