イノチを食べる君に恋をした。

うさだるま

イノチを食べる君に恋をした。

 君が血塗れで友達を食べる姿を見て、僕は死んでもいいと思ったんだ。


 突然、街にゾンビが現れてから、僕らは逃げる事を余儀なくされた。日が経つごとにゾンビは増えていく。逃げても逃げても終わらない地獄が広がり、食糧は既に尽きていた。

 それでも、僕は諦めなかった。

 死んでたまるか。死んでたまるか。

 何度も何度も自分に言い聞かせたし、共に逃げている親友にもそう言った。

 夜は当然眠れず、交代で見回りをし、少しでも気配を感じたら、全力で逃げる。

 空腹と眠気、それに極度に消耗した精神と体力。

 自分の足の感覚すら不確かで、それでもなんとか生き延びようともがいてもがいたその先に君はいた。

 その日は珍しく、雨の日だった。

 男二人、肩を貸し合いなんとか避難してきた廃工場の真ん中にセーラー服を来たゾンビが立っていた。

 赤縁のメガネをかけた長い黒髪の少女だった。

 僕が一瞬、目を奪われていると、「おい!逃げるぞ!」と友人が声をかける。

 ああ、そうだ。逃げなきゃ。

 しかし、疲れがここにきて響いたのだろうか。上手く走れないどころか、歩く事すらままならず、僕は転んでしまう。

 それは友人も同じなようで、足を引きずるように、なんとか逃げようと身をくねっていた。

 ゆっくりと少女は近づいてくる。

 その肌は血の気がなく、恐ろしいほど白い。

 まだ死んでから時間がたっていないのか、身体の欠損は見当たらなかった。首に大きな咬み傷があるだけだ。

 立ち上がることも逃げることもできない僕らは、少女が近づいてくるのを、ただ眺めることしかできない。

 ゆらり、ゆらりと歩きに合わせて、身体がゆれ、スカートがなびいていた。

 少女の死体は友人のもとに辿り着く。

 友人が何か言葉にならない音を怒鳴りちらすが構わない。

 がぶり。

 うつ伏せの彼のふくらはぎの辺りを彼女は噛んだ。

 つぷりと血が流れ、足を伝う。

 彼女の咀嚼音を友人の悲鳴がかき消した。

「やめろ、やめてくれ!お願いだからァ!!!!」

 友人が懇願するかのように叫ぶが死んだ彼女には届かない。

 荒々しく、貪り、食う。

 血を辺りに撒き散らし、骨を砕き、臓物を啜る。

 彼女は両手で、もう物言わなくなった友人の一部を両手で手掴みで手も口も赤く染めながら食っている。

 歯を立てた箇所から血が吹き出し、滴る。

 それを彼女は服で拭いながら、また貪るのだ。

 黒く長い髪を振り乱しながら、友人だったものを食う彼女を見て、僕は美しいと思った。

 彼女の血で赤く染まった唇も白く濁った瞳も、綺麗でたまらなかった。

 友人を喰われているのに僕は興奮していたんだ。

 嗚呼、美しい君よ。

 僕は彼女に手を伸ばす。

 最愛の人を抱き寄せるように、強く強く抱きしめた。

 つぷり。

 彼女はその鋭く尖った歯で、僕の首に噛み付く。

 僕は君の美しい髪になれるのだろうか。

 僕は君の美しい肌になれるのだろうか。

 僕は君の美しい唇になれるのだろうか。

 視界の端がぼんやりと揺らめいた。

 嗚呼、美しい君よ。

 願わくば、僕が美味しくありますように。

 

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イノチを食べる君に恋をした。 うさだるま @usagi3hop2step1janp

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