第4話 エピローグ
高校生活が終わり、悠と美咲は大学進学を控えていた。
街に広がった虹の光は、あれから数ヶ月経っても色あせず、人々に希望を与え続けていた。
そんなある日、二人は重大な決断を下す。
「悠君、私ね...」
美咲が切り出す。
「地元を離れて、東京の大学に行くことにしたの」
悠は驚きの表情を浮かべた。現実に引き戻されたような気がした。
「そうか...それは良いことだね」
悠は心からそう思った。美咲は大志を抱く人間だ。きっと素晴らしい舞台で活躍するだろう。
しかし、この決断は寂しさも連れてきた。
「あなたは?」
美咲が訪ねる。
「俺は...」
悠はしばし考え込み、ゆっくりと言葉を続けた。
「ここの街に残ることにするよ」
京都の地元で過ごすことを選んだのだ。地元愛が強い悠らしい選択だった。ただし、それは同時に別れの始まりでもあった。
「そっか...」
美咲は残念な顔をした。
「離れて寂しいけど、これからも時々、会おうね」
悠はうなずいた。たとえ遠く離れた場所で生活したとしても、お互いの存在は確かにある。そして、256色の奇跡を共に体験した二人の絆は、きっと色褪せることはないだろう。
数日後、美咲は東京行きの新幹線に乗る時がきた。悠は駅のホームで見送りをした。
「頑張って!」
「うん...! 時々、会いに来るからね」
美咲の姿が見えなくなると、悠は溜め息をついた。また一人になってしまった。
しかし、すぐに気を取り直す。もう孤独ではない。街にはたくさんの人々がいる。
「よーし、俺も頑張るか!」
悠は勇気を振り絞って歩き出した。これからも地元の人と街を守る生活を続けるのだ。
それから1年が過ぎ、悠は街の人気者になっていた。路上で寄り道の老人を助け、子どもたちの相談に乗り、地域で起きるトラブルにも積極的に関わっていた。
そんなある日、悠は公園のベンチでくつろいでいると、とある姿が現れた。
「久しぶりですね。悠さん」
驚いて振り返ると、そこには不思議な老人の姿があった。クレヨンを手渡した、あの日の老人だ。
「お久しぶりです。どこにいらしてたんですか?」
老人は優しく微笑んだ。
「この街に潜んでいただけですよ。君の姿を見守っておりました」
「へぇ...なるほどね」
悠は頷いた。
「俺、色んな経験をしてきたんだ。街のみんなの手助けをしてきて、自分の幸せが見つかったと思う」
「そうですか...」
老人はうなずき、続けた。
「それは良かった。しかし、君にはまだ課題が残されてますよ」
「えっ?」
悠は眉をひそめた。
「君は人々の幸せを導くことはできた。しかし、前世では、自分の幸せだけでなく、特別な人との幸せも掴めなかったのだ」
特別な人...? そうだ、美咲のことを指しているのだろう。
「美咲は東京で頑張ってるから...。でも...」
悠は言い淀んだ。はたしてそれで本当に充分だったのだろうか。美咲との絆は確かに大切だが、それが最終的な幸せとは思えない。
「おじいさん、私は一体どうすればいいんでしょうか?」
老人は大きくうなずき、持っていたバッグからクレヨンセットを取り出した。するとそれは、見覚えのある256色のクレヨンだった。
「これを使ってはいかがでしょうか。そして、心の底から湧き出てくるような願いを絵に描いてみるのです」
悠はクレヨンを受け取った。それから数ヶ月、じっくりと自分の心に耳を傾けた。
そして、悠はついに心の底から湧き出てきた願いを確信した。
それは...美咲との幸せだった。
心から溢れ出る想いを、クレヨンで形にしていく。黄色で幸福、赤で情熱、青で絆...。全ての色を使い果たして、一つの絵が出来上がった。
「わぁ...!」
絵からなんと虹の橋が街路に広がっていった。まるで天から地上へと伸びるような、鮮やかな虹の道だった。
そしてその彼方には、駆けつけた美咲の姿があった。
「悠君...!」
「美咲!」
二人は虹の橋を駆け抜けると、ぎゅっと抱き合った。幾年ぶりかの再会に、どちらも喜びの涙を流していた。
「ずっと、一緒にいたかった...!」
と美咲は言った。
「俺も...!」
そして心から美咲に言った。
「俺は、美咲と一緒に長い旅路を歩みたい」
二人が手を重ねると、虹の橋は光の塊となって宙へと舞い上がり、きらきらと輝きを放った。
「二人ともおめでとう」
と老人が祝う。
「ついに全ての試練を乗り越え、真の幸せを手に入れたのですね」
悠は、美咲の手を取って、共に歩き出した。未知の旅路が、目の前に広がる。
だけど、二人なら恐れることはない。お互いの存在があれば、何があっても乗り越えられる。
色とりどりの人生が、そこに待っている。悠と美咲は、自らの可能性を信じて、前に進んでいった。
そして物語は、美しい虹が2人の行く手を照らす姿で、幕を閉じた。
(完)
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